<ベトナム芸能界珍道中>
愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
第2話:みなぎるヤル気と、いきなりの挫折!?
☆前回までのあらすじ☆
「スターになる」という長年の夢を持ち続けるSAKAI。念願叶って、ついに手にしたベトナム歌手デビューへのチャンス。空港で初対面したWADAとともに、ベトナムへ飛び立った…。
ベトナムの空港に着いた瞬間、たくさんのベトナム人の視線が俺たちに向けられていた。俺は当然、自分がカッコイイからだと思ってたけど、実は日本人そのものが珍しいみたい。さらに「オカマ風の長髪男」と「怪しいオジサン」も一緒だし、目立つのも当然だろう。
しかし、アツい! マジで暑い!!!さらに独特な「アジア臭」が気になる。これがベトナムという国なのか。
空港を出て、現地スタッフらしいベトナム人と一緒にタクシーに乗り込んだ。1時間以上も走り続け、周囲は学校の教科書で見た戦後の日本のような景色に変わっていく。アジアの山奥で見知らぬ世界に売り飛ばされる姿が脳裏に浮かんだ瞬間、タクシーは止まった。
そこにあったのは、周りの風景にそぐわない真っ白いビル。ますます怪しい。
案内されたのは、20畳もあろうかという広々とした部屋に、大きなダブルベット。そしてゴージャスなセレブ仕様のバスルームもある。
俺も成長したなあという満足感と優越感。ひとりベランダでベトナムの夜空を眺めていたら、さっきまでの不安のカケラもどこかに消え去った。
と、そのとき、ドアをトントンとノックする音。WADAとベトナム人スタッフがビールを箱ごと持ってきて、一緒に飲もうと言う。WADAはベトナム語も話せないのに、早速ベトナム人と仲良くなっている。世渡り上手なヤツだ。
翌日、デビューコンサートが1ヶ月後だと知らされる。デビューは本当だったみたいだ。
それから毎日、カラオケ練習が始まった。ベトナム若手2大歌手ラム・チューン(Lam Truong)と、ダン・チューン(Dan Truong)の曲をベトナム語で覚えなければならない。だが、俺は正直とまどった。
「なぜ、他人の曲を歌わなきゃならないんだ。」
どうやらベトナムは、著名な作曲家が作った有名な曲を歌うだけで売れる世界らしい。一方、俺はデビューといえばオリジナルだと勝手に思い込んでいたので、納得がいかなかった。朝起きてカラオケ、ご飯食べてカラオケ、お風呂入ってカラオケ。こんなんで歌えるようになるのか??
俺がこんな練習であくせくしていた頃、WADAは優雅にボイストレーニングスクールに通っていた。この待遇の差は何だ? と、補欠当選みたいな自分への待遇のショボさに呆れ、絶対にスターになって見返してやると心に誓った。
年下のWADAに嫉妬していた俺は、自分の練習に付き合わせるため、嫌がらせのように毎日、深夜1時を過ぎた頃に彼の部屋を訪れた。嫌な顔もせず、笑顔で応じてくれるWADAに、「トップ当選はさすが余裕があるんだな」と、ひそかに感心していた。
でも最近になって、その話をしたら、
「本当は寝たいし、ウザかった。1人でやれよと思ってた。」
らしい。
デビューコンサート本番の日。俺は不安と緊張で、前夜は一睡も出来なかった。前日のリハーサルで1時間半以上も遅刻してきた現地のダンサーと生バンドに不安を覚えながら、上下黄色のナイロン製ジャージの衣装に袖を通し、髪を完璧にセット。
「さあ、行くぞ! ベトナム人を俺のパフォーマンスでびびらしてやる!」
と気合を入れた。
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(2006年11月号/2006年11月23日 木曜日 13:21JST更新) |