New 2026.05.01

ドアの向こうの暮らしぶり拝見

気になるお宅におじゃまします!

気になるお宅におじゃまします!
ハノイやホーチミン市を歩いていると、当たり前のように建ち並ぶ民家や古いアパート。そこの住民たちは、いったんどんな暮らしをしているのだろう。そんな老婆心から、あちこちの家を見せてもらった。古民家、一人暮らしのアパート、ルームシェアまで、そこには普段はなかなか垣間見れない、様々なライフスタイルと物語があった。

※記事の情報は2026年3月取材時点のものです
※現地情報により内容が異なる場合があります
目次
Hanoi ハノイ

#001 時が止まったかのような暮らし

築70年超、旧市街の古民家の一室

グエン・チョン・ドゥックさん&レ・ティ・ホンさん
Mr. Nguyễn Trọng Đức & Ms. Lê Thị Hồng
20世紀前半、ハノイ旧市街の裕福な商家にそれぞれ生まれた夫婦。夫のドゥックさん(77歳)は元公務員で、ドンスアン(Đồng Xuân)市場で布や絹を商っていた家の息子。妻のホンさん(75歳)は元化学教師で、トゥオックバック(Thuốc Bắc)通りの雑貨商の家に生まれた。現在、ドゥックさんの両親から受け継いだ一軒家の1部屋で一人娘とともに暮らしている

ホアンキエム(Hoàn Kiếm)湖から徒歩3分、ホテルや観光客向けの店が並ぶ通りにこの家はある。入口は幅2mほどで、数台のバイクが並ぶ。「昔は、この玄関まわりには仕切りがなく、車の駐車スペースだった」と、ドゥックさんの兄ヒエウ(Hiếu)さん(82歳)が教えてくれた

「1954年より前、南部へ移り住むことになった建設業者から両親がこの家を買い取りました」
穏やかな様子で、ドゥックさんは語り始める。

ドゥックさんの両親は、子どもたちのための別荘としてこの家を購入。普段は絹の街として知られたハンダオ(Hàng Đào)通りの家で暮らし、遊びや休暇でここを兄弟たちと訪れていた。

フランス軍が1954年に撤退した後、この家の用途は変化。当時、国家は私経済を奨励しておらず、旧市街の商人たちは多くの困難に直面した。ドゥックさん一家はハンダオ通りの家を売却し、1954年以降にこの家へ移り住んだ。

ただ、旧市街にある商人の住宅は、公務員の住居へ転用することが奨励され、広い家に少人数で住むことは認められていなかった。そこで見知らぬ人と同居する代わりに、ドゥックさんの父親は弟の家族を呼び寄せ、一緒に暮らすことにした。

「当時は3階建ての6部屋に6人が暮らしていましたが、今では23歳~82歳までの18人、7世帯が暮らしているんです」

貴重なリム(Lim)の木の箪笥は、職人が一つひとつオーダーメイドで仕上げたもの。表面には昔の暮らしを描いた精巧な彫刻が施され、背景には松や竹などをあしらい、中国の「四季山水図」を思わせる意匠。上品で洗練された家具として、かつてはベトナムの富裕層の家庭で好まれていた

ドゥックさんと妻のホンさん、娘の3人は2階の一室で生活し、仏壇や箪笥、ベッドなどすべてが1つの空間に収まっている。そんな変わった暮らしについて、ホンさんはこう話す。

「夫と結婚してから、1988年にこの部屋へ移り住みました。ここはもともと義理の両親の部屋だったんです。実家と比べると、ずいぶん狭いですね(笑)。親族との共同生活は不便も少なくありませんが、困ったときには、家族同士で支え合えるという良い面もあります」

天井までの高さは約4.5㎡。

当初ドゥックさん夫婦が使っていたロフトは、今では娘の部屋になっている

室内には、まるで時間を閉じ込めた箱のように、多くの思い出の品が詰まっている。

「木製の仏壇と箪笥は、前のオーナーが職人に作らせたものです。価値が高く、非常に丈夫ですので、そのままずっと使い続けています」

ふと思い立ったように、ドゥックさんが口を開いた。

「この家の設計図をご覧になりますか? フランス統治時代の書類もまだ残っているんですよ」
木製の戸棚を開けて取り出してくれたのは、70年以上もの間大切に保管され、黄ばんだフランス語の原本だった。ほかにも、1990年代初頭に家計を支えるためにドゥックさんが使っていた刺しゅうミシンや、娘が「いつの間にか親戚から受け継いだ」30年以上前の学習机など、時の経過を感じさせる品々が揃い、一家の歴史を物語っている。

1階には3世帯が共有する生活スペースがあり、共用の洗い場やキッチンと、7世帯で使う4つのトイレも設けられている。ドゥックさんとヒエウさんが子どもの頃は卓球台が置かれていた

退職後、ドゥックさんは日本製「ジャノメ」ブランドの刺しゅうミシンで、旧市街の仕立て屋向けに子ども服の刺しゅうを手がけていた。「今は故障していますが、作業用の机として使いながら、思い出としても残しておきたいんです」

満月の日(Ngày Rằm)に祭壇へ供えるため、市場で買った菊の花を生けるホンさん。バルコニーは台所でもあり、洗濯物を干す場所でもある

<エリア>ハノイ旧市街
<専有面積>【一軒】153㎡、【部屋】27㎡
<間取り>6K(寝室6・キッチン4)
<購入価格>(1㎡)約10億VND(2026年当時)
<居住人数>【一軒】7世帯18人、【1部屋】3人~

#002 自分で選んだ“家族”との独身生活

猫10匹と暮らす古アパート

ホアン・レ・トゥー・トゥイーさんと猫のニョーくん
Ms. Hoàng Lệ Thu Thủy & Mr. Nho
1982年頃に建てられた集合住宅で、10匹の猫と暮らす33歳の会社員。趣味はマンガ収集、旅行。3年前に実家を出て以来、旅行に加えて最もお金をかけているのが、10匹の猫の世話だ

25世帯ほどが暮らす5階建ての集合住宅。ハノイの古い住宅によく見られるように、住民は洗濯物干しや植栽などのために増築を重ねてきた

「自分の猫たちの世話を自分でできるように、一人暮らしを始めました。家族に迷惑をかけたくなかったから」と誇らしげに話し始めるトゥイーさん。

実家から1.5kmほどのこのアパートに、5匹の猫を連れて引っ越してきた。

「出かけようとドアを開けたら、そこに座っていた野良猫など、不思議な縁で飼うことになった猫たちです」

それから3年、世話ができなくなった友人・親戚から預かった猫も集まり、現在では10匹の猫と一緒に暮らしている。

「新しいマンションではペットを飼えなかったり、頭数が制限されたりすることが多いので、古い集合住宅は動物たちと暮らすのに理想的。家賃も安いし、管理も厳しくないんです」

トゥイーさんが帰宅すると、猫たちがすぐにあちこちから集まってきて甘えてくる。夜はベッドの周りで一緒に眠る。「猫たちに守られているように感じます」

トゥイーさんの小さなアパートには、猫グッズが所狭しと並ぶ。キャットタワー1台に、爪とぎ、自動トイレ、自動給餌器が2台ずつ、自動給水器も4台が揃い、各所に設置されている。リビング兼寝室とキッチンには2台のカメラがあり、仕事や旅行中でも猫の様子を確認したり、声をかけたりできる。

「5階の角部屋なので、窓が多く日差しがたっぷり入って明るいのがいいですね。部屋からは緑の木々が色濃い中庭が望めて、猫たちも家の中で快適に過ごせます。ただ夏はかなり暑く、猛暑の日には猫たちのために、出かけるときはエアコンをつけっぱなしにしています」

キッチンやトイレは比較的シンプルで、飼い主の持ち物は猫グッズほど多くない。歯ブラシのそばには、猫用の消化酵素が置かれているなど、飼い主のものと猫グッズが入り混じっている

猫用グッズやフードが、とにかく室内のあちこちで目に入る。

猫砂や餌などにかかる毎月の費用は400万VNDほどで、韓国やカナダなどからの輸入品を使用している

幼い頃から「猫が大好きだった」トゥイーさんは、心身ともに疲れたときでも、そばに猫がいるだけでとても癒されていると話す。彼女にとって、猫と暮らすことこそが理想の生活だ。

「結婚して家庭を作る代わりに、私は猫と暮らす道を選びました。信じられないかもしれませんが、体のどこかが痛むと、猫たちがその場所にそっと頭を乗せてくれるんです。将来、もっと経済的に余裕ができたら、小さな庭付きの家で猫たちと暮らし、自由に走り回れる環境をつくるのが夢です」

出窓は猫たちのお気に入りスポット。安全のためにネットで囲われており、一日中窓を開け放して空気を入れ替えても安心というメリットも

<エリア>ハノイ・タインスアン(Thanh Xuân)エリア
<専有面積>21㎡
<間取り>1K
<購入価格>(1ヶ月)350万VND
<居住人数>1人
Ho Chi Minh City ホーチミン市

#003 最上階に息づく労働者の日常

景色抜群の一等地ローカルアパート

レ・ヴァン・ティエンさん
Mr. Lê Văn Tiến
ベトナム北部の出身で、10年以上前にホーチミン市へ移住。以来、この古いアパートの5階で妻と暮らしている。子どもたちはすでに独立して家を出ており、現在は自宅近くの衣料品店で警備の仕事をしている

4階へ続く階段でティエンさんと合流し、軽くあいさつを交わしたあと、そのまま5階の住まいへ案内してもらった。上へ進むにつれて、下の階に並ぶ店々のにぎわいは少しずつ遠のき、空気はぐっと落ち着いたものに変わっていく。ゆっくりと歩きながら、ティエンさんは自らの暮らす場所についてこう語った。

「5階に着くと雰囲気ががらっと変わるでしょう? にぎやかな下の階とは対照的に、ここには静かで素朴な暮らしの空間が広がっています。広くも豪華でもありませんが、長年ここで暮らしている人は多いですね」 

今や1階から4階までは観光客向けのファッション店や古着店、アクセサリーショップ、カフェなどが並ぶ人気スポットだが、その上にある5階の存在はあまり知られていない。

「5階での暮らしは、とても質素ですが快適なんですよ」

風通しがよく、静かで、治安も悪くない。ティエンさんの妻はこう振り返る。

「買い物に出かけたときに鍵をかけ忘れたことがあったのですが、何もなくなっていませんでした」


ティエンさんがタイルを一枚一枚を自分で選ぶなどして整えた応接スペース。2人暮らしではあるが、それでも「きちんとお客さんを迎えられる場所を持ちたい」と思ったと話す

応接スペースの奥は夫妻の生活空間になっている。昼間はマットレスを片づけて食事の場として使い、夜になると再びマットレスを敷いて寝室として使っている

都心部という好立地のため生活費は高くなりがちだが、旧ビンタイン(Bình Thạnh)区のティゲー(Thị Nghè)市場などで週ごとにまとめ買いをすれば、出費はかなり抑えられるそうだ。不便なのは、エレベーターが止まってしまったとき。直るまですべて階段で移動しなければならず、それがいちばん大変だという。

寝るスペースの空いた場所には、炊飯器や食器などの生活用品も置かれている。さらに、自ら工夫して専用のエアコンも設置した

台所は狭いが、できるだけ場所を取らないように物を整理して使っている。「限られた空間を有効に使うために、ミニ棚なども活用しています」

台所の向かいが浴室。ここもティエンさん一家が使いやすいように整え直していて、洗濯機や給湯器なども完備

部屋の外にある個室3つの共用トイレ。住民みんなが利用する

そんなローカルアパートならではの出来事もありつつ、「ここからビテクスコタワー(Bitexco Financial Tower)が良く見えるんです。この眺めを毎日楽しめる場所はそう多くないですよ」。そう楽し気に話し、今の暮らしに満足している様子だった。

風通しの良いバルコニーには、ティエンさんが心を込めて育てた多くの鉢植えが並び、街を一望できる景色が広がっている

<エリア>ホーチミン市旧1区
<専有面積>20㎡
<間取り>1DK
<購入価格>500万VND程度
<居住人数>2人

#004 親元を離れ自立への一歩

カーテンで仕切ってルームシェア

グエン・ゴック・ホアイ・ヴィーさん
Ms. Nguyễn Ngọc Hoài Vy
大学を卒業して1年ほど、23歳の会社員。趣味はBLマンガと寝ること。学生や会社員向けの賃貸アパートの一室で、1歳年上のルームメイトと2人で暮らしている
ヴィーさんが実家を離れて暮らし始めたのは、通勤の負担が大きかったから。両親が暮らす実家はホーチミン市郊外にあり、毎日職場まで往復25kmほどの距離を移動していた。

「通勤が大変だったし、両親からも早く自立してほしいと言われていました」

現在の住まいは、フェイスブックを何気なく見ていたときに偶然見つけた部屋の賃貸募集の投稿で知った。4階建て、各階に2部屋ずつ備わったアパートで、ヴィーさんは2階の一室をカーテンで仕切ってルームメイトと暮らしている。職場に近く、家賃も予算の範囲内で、家具も最初から揃っていたことが、この部屋を選ぶ決め手だった。

自分で持ち込んだマットレスは今のベッドには少し大きいため、端を折っていて、小さなソファのよう。ベッドまわりに欠かせないのは、昔から使っているぬいぐるみたちだ

ベッドの前には、スキンケア用品や資料、本などを置いている。棚の上の黒いスーツケースは、「父から譲り受けたもので、大切な思い出の品なんです」。契約書や保険証書などの大切な書類の保管に重宝している

実際に住み始めてみると、ルームシェアの不便な面を知ることとなった。トイレは同じ階の住人との共用で、キッチンや冷蔵庫も皆で使うため、自分の好きなものを自由に置けないこともある。

「共同生活では、お互いに合わせながらルールを守ることが大切だと実感しています」

それでも今の暮らしには満足している。その理由の1つが、気の合うルームメイトに恵まれたことだ。入居当初から一緒に暮らしているフオン(Phương)さんとは年齢も近く、すぐに打ち解けた。

共用キッチンは1階にあり、テーブルと椅子を備えたダイニングスペースもある。「でも、私はあまりここで食事をしません。料理をするのが面倒ですし、母にあれこれ言われることもないので、つい気軽に外食したり、デリバリーを頼んだりしてしまいます(笑)」

ヴィーさんの階ではバスルームは共同。共用部分は毎週スタッフが清掃しており、ルールも掲示されている

「私が引っ越す前からこの部屋で暮らしていたのがフオンさん。ありがたいことに私たちはとても気が合い、彼女はいつも私のことを気にかけ、励ましてくれました。今では家族のような存在です」

2人の間では「恋人を連れてこない」などの独自のルールを決めている。もちろん、目覚ましをかけた本人が熟睡していて気づかず、同室の相手だけが起こされてしまうといった小さな不便もある。

「ここは自分だけの空間ではないので、共同生活ではお互いに歩み寄り、折り合いをつけながら暮らしていくこ
とが大切だと感じています」

仕事着はアイロンをかけ、しわにならないようにクローゼットへ。普段着はベッド下の引き出しに入れているが、忙しいときはベッドの上に置いたままにすることも

仕事着はアイロンをかけ、しわにならないようにクローゼットへ。普段着はベッド下の引き出しに入れているが、忙しいときはベッドの上に置いたままにすることも

廊下は人の出入りが多いため、プライバシーを守るためにドアの前にカーテンを付けた。向かいの部屋では、現在4人が暮らしている

<エリア>ホーチミン市旧10区
<専有面積>16㎡(2人用に仕切られ、1人8㎡ずつ)
<間取り>ワンルーム
<購入価格>(1ヶ月)約260万VND/1人
<居住人数>2人
関連記事
Related Articles
ベトナム市場の珍百景
2025.01.01

ベトナム市場の珍百景

雨の日はアート日和
2024.08.01

雨の日はアート日和

ベトナムのマンガ事情2022
2022.10.01

ベトナムのマンガ事情2022

ベトナム人はみんな持ってる万能薬Dầu Gióのすすめ
2022.04.01

ベトナム人はみんな持ってる万能薬Dầu Gióのすすめ

ディープベトナム展<br>博物館で伝統文化の魅力を深掘り!
2022.01.01

ディープベトナム展
博物館で伝統文化の魅力を深掘り!