New 2025.09.01

ベトナム建国80周年

1945~2025年のベトナムプロパガンダアート

1945~2025年のベトナムプロパガンダアート
ベトナムの街中のあちこちで目にする、プロパガンダ看板の数々。政府から国民へのメッセージを視覚的に伝えるこの宣伝手法は、かつての戦争の時代から積極的に活用されてきた。2025年9月2日は、ベトナム社会主義共和国建国80周年にあたる。その歴史と切っても切れないプロパガンダアートを通して、ベトナムの歩みを学んでみよう。

※記事の情報は2025年7月取材時点のものです
※現地事情により内容が異なる場合があります
目次

ベトナム建国からの80年と共にあった

ベトナムプロパガンダアートの変遷

ベトナム独立同盟(ベトミン)が1945年8月17日に八月革命を起こし、9月2日にベトナム民主共和国が誕生してから、2025年で80年を迎えた。この間、ベトナムは2度の大戦争を経験し、社会や国の変遷を続けてきた中で、政府が自国のメッセージを伝えるために積極的に活用してきたプロパガンダポスターは、さまざまな表現手法をもって時代の動向や社会的な価値観を反映している。

1945年
対仏抗戦期

『独立ベトナム』新聞創刊 1941年に30年ぶりに帰国したホー・チ・ミンは、ベトナム独立のための統一戦線組織「ベトナム独立同盟会」(ベトミン)を組織して主席に就任。グエン・アイ・コック(阮愛国)の名で同年8月1日に『独立ベトナム』新聞を創刊し、8月21日号ではトランペットを吹く人の姿で「独立ベトナム」と描き、国民に団結と抵抗を呼びかけた。この挿絵こそが、その後のプロパガンダポスターの原型だとされる。

八月革命 1945年8月、ホー・チ・ミン主席は総蜂起を指示し、ベトミン軍は全国に展開した。ハノイのメゾンゴダール百貨店(現チャンティエンプラザ)に掲示された「ベトナムはベトナム人のため」のポスターは、当時を代表するプロパガンダポスターの1つ。インドシナ美術学校を卒業した画家グエン・ヴァン・カンが描いた、美術性豊かな造形が特徴だ。

「祖国を愛し、民族を思う者よ、祖国に帰り、
植民地主義者を打倒せよ」

1945年8月革命に勝利し、9月2日にベトナム民主共和国を樹立したものの、フランスの反撃を受け、ホー・チ・ミン主席率いる新政府は主要都市から撤退し、北部山岳地帯へと移動した。画材や設備が不足していたため、フランスへの抵抗運動を呼びかけるポスターはモノクロが主体で、手描きや石版印刷、木版印刷によって作られた。

「飢餓撲滅のために、全国民が増産に参加」

1945年の飢饉で200万人が死亡した後、北部の人々の生活は非常に困難を極め、文盲率も高かった。このため、1946年以降、ホー・チ・ミン主席の政府は飢餓対策として文盲撲滅と生産活動の強化を訴え、教育と労働力の向上に力を入れることがプロパガンダポスターの主要テーマの1つとなった。絵柄や文字は伝統絵画を思わせる、農村や動物を描いた親しみやすいものだった。

ディエンビエンフーの戦い 1954年3月13日~5月7日まで、ヴォー・グエン・ザップ将軍率いるベトナム軍はディエンビエンフーでフランス軍と激しい戦闘を繰り広げ、最終的にフランス軍を破った。フランスのインドシナからの撤退を決定的にしたこの勝利をたたえるポスターでは、ベトナム軍の兵士たちが国旗を高々と掲げる様子が強い筆致で描かれた。

「ディエンビエンフーの偉大な勝利は始まりに過ぎない。独立、統一、民主主義、そして平和を獲得するために、我々は断固として抵抗しなければならない」
(ホー・チ・ミン主席)

1954年
対米抗戦期

ジュネーブ協定

「最後の勝利まで戦え」

1954年のジュネーブ協定では、停戦や軍隊の再編成、南北分割が300日以内に実施され、2年後に統一選挙が行われることが決定されたが、米国は南北統一を阻止した。この時期のポスターには、祖国を守るべく決意をにじませた兵士が描かれた。

「この土地は私たちのもの、守ると決意」

米国は「戦争のベトナム化」を目的に特殊部隊を投入。北部では、「すべては愛する南部のために」をスローガンに掲げたキャンペーンを展開し、あらゆる階層の国民が工場や農村での生産活動や戦闘員への支援に従事することを強調した。この頃、画家たちは戦場から都市部へ戻っていたため、画材などの創作環境が改善され、絵には多くの色彩が使われるようになった。

北爆とテト攻勢

「銃口に憎しみをぶつけろ」

米国は局地戦争を展開するため北爆を実施し、北ベトナムへの圧力を強化。しかし、1968年1月30日夜、北ベトナム人民軍はサイゴン、ダナンなどの大きな都市で大規模な反攻を開始(テト攻勢)し、戦局は一気に激化した。画家たちは兵士に同行して戦場に向かい、戦地で起こった非日常や日常の出来事を絵に描きとめることが多かった。

パリ和平協定

「各家の屋根が1つの要塞」

1972年にはB52爆撃機を撃退し、「ハノイの上空ディエンビエンフー作戦」で勝利したことで1973年1月27日にパリ和平協定が調印され、戦争の終結が目指された。キューバやソ連などの支援を受けて画家たちはより充実した画材を手に入れ、ポスターの色彩はより鮮明に。印刷も手作業ではなく機械が導入された。

1975年
配給時代

南部解放・ベトナム統一へ

「1975年4月30日永遠に不滅 」

北ベトナムは南部解放のために生産を強化。1975年4月30日には戦車が「独立宮殿」を突破し、南北統一を果たした。その当時の様子は、多くのプロパガンダポスターに登場する主要なイメージとなった。

社会主義体制への移行

「祖国を築き守るために、国家に多くの食糧を売ろう」
©Bao Tang Phu Nu Viet Nam

1976年7月に国名を「ベトナム社会主義共和国」と改称。戦争の影響を克服するため、新しい社会主義体制の構築が進められた。この時期、民間経済は制限され、食料や生活必需品が不足し、配給制が一般的となり、生活は困窮した。プロパガンダにはカラフルな色づかいで人々が労働や生産、国づくりに励む姿を描き、またこの頃にオフセット印刷機が導入された。

1986年
ドイモイ政策

©Cong Ty Tem Viet Nam

ドイモイ政策 1986年12月、第6回共産党大会でドイモイ(刷新)政策が承認され、経済改革が始まった。政府主導の単一部門経済から民間の参加を認めた多部門経済へと移行し、外国との貿易も開放。これにより、ベトナム経済は成長を始め、繁栄の兆しを見せた。この重要な党大会を記念するポスターが多数作られた。

「エイズ: 麻薬は一度たりとも試してはならない」

社会的課題の浮上 1990年代、ベトナムは経済発展と海外交流を進める一方、麻薬やHIVの流行といった社会問題にも直面した。これらの課題に対処するため、政府は予防や啓発活動を強化。麻薬撲滅などをテーマにした大型のプロパガンダ看板が、交差点や校門前など人が多く集まる公共スペースに掲示された。

©Cong Ty Tem Viet Nam

米国との国交回復 米国は1994年2月3日、ベトナムに対する経済制裁を全面的に解除し、1995年7月11日、ビル・クリントン大統領がベトナムとの国交正常化を発表した。この頃になるとプロパガンダポスターは手描きではなくベクター画像や遠近法を用いた表現などが登場し、ポスターはコート紙に工業用インクで印刷された。

1995年〜2025年
成長と躍進の時代

ベトナム独立80周年

「八月革命成功とベトナム社会主義共和国建国80年を熱烈歓迎」
©Trung Tam Van Hoa Tinh Nghe An

八月革命とベトナム社会主義共和国建国80周年を祝うため、ベトナム国民全員を対象としたプロパガンダ創作コンテストが開催。応募作品の中から選ばれた100〜150点のプロパガンダのアート作品は、大判に印刷され、2025年8月にホー・チ・ミン主席の故郷であるゲアン省のホー・チ・ミン広場に展示される。

「南部解放・国土統一50年を熱烈歓迎」

南北統一50周年 南ベトナム解放・北南統一50周年を祝うパレードが、2025年4月30日にホーチミン市で開催され、式典は大きな話題となった。街の至るところに掲げられた50周年記念のポスターや看板の多くはデジタルソフトでデザインされ、一部には実写画像も組み込まれるなど、現代らしい手法が積極的に取り入れられた。

新型コロナウイルスの流行

「全国民でコロナウイルス対策に取り組もう」

2020年のコロナ禍、ベトナム政府は感染予防対策として「5K」スローガンを推進。5Kは「マスク(Khẩu trang)・消毒(Khử khuẩn)・距離(Khoảng cách)・集会禁止(Không tập trung)・健康宣言(Khai báo y tế)」の意味で、住宅街の壁画でも地域社会の安全を守るために広く呼びかけられた。

INTERVIEW 1

国からの大切なメッセージを伝える
芸術性の高い表現方法

時代の変遷を反映したベトナムのプロパガンダポスターは、政府のメッセージを伝える手段として誕生し、次第に芸術作品として評価されるようになった。その芸術性がどのように生まれて進化してきたのかについて、ベトナムプロパガンダの研究者に聞いた。

1974年生まれ。ベトナム美術大学美術研究所の講師。近現代美術の研究に加え、アートイベントの企画やキュレーションも行っている

美術研究者
ヴー・フイ・トン さん
(Vũ Huy Thông)
『フランス植民地時代の革命報道におけるイラスト表現/Nghệ thuật minh họa trên báo chí cách mạng Việt Nam thời thuộc Pháp』、『1954〜1975年のベトナムプロパガンダアート/Nghệ thuật tranh cổ động Việt Nam giai đoạn 1954 -1975』、『1945〜1954年のプロパガンダアートにおけるイメージ体系/Hệ thống hình tượng trong tranh cổ động Việt Nam giai đoạn 1945-1954』

プロパガンダアートの起源と意味

「公的な出版物では、ベトナムのプロパガンダアートは1945年以降にしか触れられていないことに疑問を感じ、研究を始めました」

そう話すのは、美術研究者のヴー・フイ・トンさん。フランス語の書籍や、世界中の博物館がインターネットで公開した資料をもとに、ベトナムプロパガンダアートの歴史とその芸術性を深く掘り下げてきた。

ベトナムで「プロパガンダアート」を指す言葉は「鼓動絵/Tranh Cổ Động」と言う。トンさんは「鼓動」と「プロパガンダ」は異なる概念だと説明する。

「20世紀初頭に登場した『鼓動』は、奮起させるという意味があります。一方、『プロパガンダ』は、思想や信念に長期的に影響を与えることを目的としています。ベトナムのプロパガンダアートは、政治的なメッセージを伝える手段として広く知られ、『扇動的プロパガンダ/Agit-pro(アジプロ)』としても認識されています」

フランスの影響と美術教育

「プロの画家が描いたベトナムのプロパガンダポスターには、芸術性があります」とトンさんは強調する。19世紀末のハノイやサイゴンでは、広告や、第一次世界大戦に参戦するフランス軍の兵士や労働者の募集ポスターを目にすることが一般的で、美術学生たちはその制作を依頼された。 

「20世紀初頭、インドシナ美術学校(Trường Mỹ Thuật Đông Dương)やザーディン美術学校(Trường Mỹ Thuật Gia Định)で、ベトナムの学生たちはフランスの芸術家から絵画や彫刻、建築などを学び、知識や技術を身に着けました。これらの美術教育は、プロパガンダポスターの制作にも大きく影響したのです」

実際、トー・ゴック・ヴァン(Tô Ngọc Vân)やチャン・ヴァン・カン(Trần Văn Cẩn)などの著名な画家たちも、初期のプロパガンダポスター制作に参加した。

ベトナムのプロパガンダアートには、社会のさまざまな階層を団結させるイメージが多く含まれている。例えば1945年の八月革命では定規を持つ知識人、鎌を持つ農民、ハンマーを持つ労働者、銃を持つ兵士が描かれ、革命の目的である社会的結束を強調した。

「とくに、ホー・チ・ミン主席の肖像画は、抗戦時代から現在に至るまで頻繁に描かれてきています。彼の思想や言葉とともに、ベトナムの精神性を象徴する蓮の花を描くことで重要性が表現されています」

「全国民が文字を学び、無知という敵を打ち倒そう」(1949年)。1945~1954年、伝統芸術ドンホー(Đông Hồ)版画の職人もプロパガンダアート制作に関わった

戦争時代のプロパガンダアート

ベトナムのプロパガンダアートは、表現方法も非常に多様だ。 

「資材が限られていた対仏抗戦時代(1945~1954年)においては、北部山岳地帯で活動していた画家たちは石版や木版を使い、モノトーンの連続したコマで物語を描く手法を採用しました。これは文字が読めない人々に向けて、視覚的に情報を伝えるのに効果的でした」

有名な例として、グエン・アイ・クオック(ホー・チ・ミン主席の変名)が『ベトナム独立』新聞(1941~1945年)に描いた「ベトナム独立」の挿絵がある。

1945年当時はまだ「プロパガンダ」とは呼ばれず、「普及画」「宣伝画」「連続普及画」「四屏画」などの名称が使われていた。内容はシンプルでわかりやすい内容が多く、家畜の飼育や農作業の奨励や、戦場のニュースを簡潔に伝えるものなど、民衆が理解しやすいマンガ形式のストーリーで表現していた。

1954~1975年の対米抗戦時代、ベトナムのプロパガンダアートは大きな発展を遂げた。国内の画家に加え、海外での美術留学から帰国した画家たちもプロパガンダポスターの制作に参加したことで、スタイルもいっそう多様化した。

「人物の顔が理想的に描かれることはなく、むしろ人間味ある芸術的な表現が重視されました」

1966年、戦争が激化する中で、ベトナムプロパガンダ工房(Xưởng Tranh Cổ Động Việt Nam)が設立され、プロパガンダアートは専門的な職業として確立。この時期、B52爆撃機の撃墜や増産活動など、戦況を伝える壁画が多く描かれた。

上から「植えるなら、良い木を植えなければならない」、「光を活用した漁業技術の発展と向上」。1975年から社会主義国家の建設と生産増強が呼びかけられ、山間部や沿岸部など、地域ごとに合わせた内容でメッセージが描かれた

ベトナム美術での特異なジャンル

ベトナムのプロパガンダアートは、日常や時事に寄り添いながら、国の重要な歴史とともに歩んできた。テーマがあらかじめ定められることもあるが、表現方法に縛られることはなく、画家一人ひとりの個性が色濃く反映されている。その結果、多彩で独自性あふれる作品群が生まれていった。

「プロパガンダアートは、ベトナム人にとって身近な存在であると同時に、外国人、とくに芸術研究者にとっても非常に興味深いテーマです。より多くの人にベトナムのプロパガンダアートを知ってもらい、歴史的側面と芸術的側面の両方から深く理解していただけると嬉しいですね」

ベトナム共産党創立50周年記念のポスター。ホー・チ・ミン主席の肖像、五芒星、鎌と槌の標章と共に、「偉大なるホー主席は、私たちの事業の中で永遠に生き続ける」と書かれている

20世紀初頭、ベトナム画家たちにとっては、フランスのプロパガンダ技法を学ぶ機会でもあった

INTERVIEW 2

ベトナムのプロパガンダアートは、
歴史と向き合うための大切な手段

1991年からベトナムで暮らし、プロパガンダポスターや切手、戦争画を収集し続けているイギリス人ドミニク・スクリヴェンさん。集めた作品の収集・保存・展示に加え、若手の育成にも取り組む彼に、プロパガンダアートの魅力について話を聞いた。

撮影/平山耕一

ドラゴンキャピタル創業者兼会長
ドミニク・スクリヴェン さん
(Dominic Scriven)
英国生まれ。エクセター大学で法学と社会学を学び、ロンドンと香港で金融業務に従事。ベトナムの経済発展と声調言語に惹かれて現地に移住し、1994年に資産運用会社「ドラゴンキャピタル/Dragon Capital」を共同設立。2006年に英帝国勲章、2014年にベトナム労働勲章を授与。プロパガンダアートの収集・保存・展示を非営利に行うほか、若手アーティストの育成にも取り組んでいる

プロパガンダアート
収集のきっかけ

ドミニクさんは1991年にベトナムに移住し、ハノイ国家大学で2年間、ベトナム語を学んだ。

「当時のハノイはネオンもなく、風景はとても地味でした。そこで目を引いた“色”が、街中に掲げられたプロパガンダの看板でした。最初は単純にそのデザインや色使いに惹かれ、次第にその歴史的背景に強い興味を抱くようになったのです」

当時のハノイに滞在していた数少ない外国人として、プロパガンダアートは「衝撃的だった」と話す。

「ベトナム人にとっては“ただそこにあるもの”でも、自分にとっては印象的でした。いくつかの国営のプロパガンダポスター制作スタジオがあり、政治的、社会的、経済的なメッセージや記念日をテーマにした作品を作っていました」

友人の協力を得て、さらにコレクターや国際オークションなどを介して収集した作品は今や1000点以上にのぼる。傷んだ作品はイギリスの修復家の手でよみがえり、ホーチミン市タオディエンに構えた私設ギャラリー「ドグマコレクション」で大切に保管されている。

「チェ・ゲバラの精神は不滅である」

膨大かつ多岐にわたる
コレクション

収集を始めた当初はホーチミン市1区に小さな店を開き、プロパガンダアートのTシャツやポスターなどのグッズの販売に着手した。

「でも全く受けなくて(笑)。商業的なアプローチが無理なら、非営利にいこうと決め、収集を進めたのです」

ドミニクさんのプロパガンダアートのコレクションは、1950~1980年代を中心に、原画や木製版画などが揃う。さらに、1945~1990年代の膨大な切手コレクションや、従軍作家による戦争画にまで及ぶ。

「従軍画家たちは、政治的な宣伝ポスターだけでなく、日常風景も描いていました。画材は不足していたため、粗悪な紙や何かの裏紙に描かれたものが多く、保存性よりも現地での情報発信に軸が置かれていたことがわかります」

画家の手を通して
全国各地に伝えるメッセージ

プロパガンダアートの大元は、政府からのメッセージだ。そのテーマに基づいて芸術協会の画家たちが各自作品を仕上げ、採用されると「プロパガンダポスター」の原画となる。これをシルクスクリーンで印刷して色見本とし、それを画家たちが紙や壁に手描きしたほか、木製版画として拡散させた。

「たとえば政府のメッセージが『生産増加をして輸出しよう』だったとします。それをターイグエン省なら『オレンジを増産して輸出しよう』、港町のハイフォンなら『もっとオレンジを輸出しよう』と、土地柄に合わせた具体的なメッセージとなり、その土地の画家が描いて隅々にまで伝えられるのです」

「スイスのオークションで手に入れた」というベトナム切手のコレクションはアルバム50冊にのぼる。原画、校正刷り、初版、未使用・使用済み切手などが揃う

兵士や市民の視点で
描かれたアート

ドミニクさんは、プロパガンダアートのどこに魅力を見出したのだろうか。

「ベトナムの特徴は“誠実さ”だと思っています。ベトナムが置かれてきた困難な立場を考えると、メッセージは直接的で、時代の流れを示しています。それでも国は国民に向き合い、まっすぐなメッセージを発信してきたことが読み取れるのです」

1つひとつのポスターをよく見ると、細部まで描き込まれていることがわかる。とくに人々の表情は喜怒哀楽が豊かで、人間らしさを感じさせる。

「そう、とても人間的なのです。人々の情感や体温が伝わるような仕上がりが、ベトナムの特徴なのだと思います」

文化的・歴史的遺産の今後

ドミニクさんは、収集した作品を保存・展示するためにギャラリー「ドグマコレクション」を設立。また2009年には「ドグマプライズ/Dogma Prize」を創設し、アーティストの育成支援も行ってきた。年に数回開かれる展示会には、Z世代を中心とした若いベトナム人が多く訪れる。

「彼らはプロパガンダポスターをアートとして観賞するために、あるいは歴史を学ぶために来てくれます。政治的なポスターは上の世代にとっては記憶を呼び起こすものですが、若い世代のは客観的に見られるのが大きな違いですね」

ベトナムのプロパガンダアートは、政治的アートとして研究が待たれるのが現状だ。

「今ではコンピュータグラフィックスが主流ですが、やはり手作業で描かれたポスターや絵画が持つ物理的な存在感に勝るものはありません。これらの歴史的、文化的遺産を最終的にどうしていくのかは、ベトナムの方たちが決めること。ベトナム人の手に帰るべきだと考えています」

「山岳地帯、中部丘陵地帯、新経済区域で多くの果樹を植えて輸出しよう」

Information

Dogma Collection

住所:27A Nguyen Cu St., Thao Dien Ward, Thu Duc, HCMC
電話:なし
営業時間: 完全予約制
Facebook: @DogmaCollection
Instagram: @dogma.collection
ウェブサイト: dogmacollection.com

当時のプロパガンダの“熱”に触れる

国立博物館で原画観賞

ハノイやホーチミン市にある国立博物館では、それぞれのテーマに沿って工夫を凝らし、プロパガンダ作品を収集・展示している。デジタルで処理される現代とは異なる、かつての原画を実際に見て、当時の様子に思いを馳せたい。
Hanoi ハノイ

ベトナム美術博物館
Bảo Tàng Mỹ Thuật Việt Nam

博物館所蔵の約1000点の原画の中から、3階「グラフィック・紙絵」エリアに1954~1975年制作のプロパガンダポスター10点を展示。南部での抗戦や北部での生産奨励、1975年直後の平和賛歌など、落ち着いた色彩と柔らかな表現の作品が揃う。

Information

住所:66 Nguyen Thai Hoc St., Ba Dinh Dist., Hanoi
電話:(024) 3823 3084 / 032 665 5664
営業時間:(火~日曜)8:30~17:00
休日:月曜
料金:【大人】4万VND、【生徒・大学生】2万VND、【6~16歳】1万VND、【障がい者・6歳未満の子ども】無料
Facebook: @baotangmythuat
ウェブサイト: vnfam.vn
※2025年9/1(月)~9/3(水)入館無料

ベトナム女性博物館
Bảo Tàng Phụ Nữ

約500点のプロパガンダ作品を所蔵。2階「家庭での女性」展示では母子保健をテーマに、3階「歴史のなかの女性」スペースでは対米抗戦期(1954〜1975年)の女性を描いた30点超の作品を展示し、働き戦う姿を南北各地の視点で表現している。

Information

住所:36 Ly Thuong Kiet St., Hoan Kiem Dist.
電話:(024) 3936 5973 / 3825 9936
営業時間: 8:00~17:00
休日:なし
料金:4万VND
Facebook: @baotangphunu
Instagram: @vnwomensmuseum
ウェブサイト: baotangphunu.org.vn
Ho Chi Minh City ホーチミン市

ベトナム戦争証跡博物館
Bảo Tàng Chứng Tích Chiến Tranh

対米抗戦期を中心とした戦争犯罪の関連資料を所蔵する博物館。館外の柵沿いには平和を象徴する鳩などを描いたポスターが並び、展示室「世界は1954~1975年の抗米救国戦争を支持」では国内外から集めた作品で、ベトナムの正義の闘いへの国際的支持を力強く伝えている。

Information

住所:28 Vo Van Tan St., Dist. 3, HCMC
電話:(028) 3930 6664 / 3930 6325
営業時間:7:30~17:30
休日:なし
料金:【大人】4万VND、【子ども】(6~16歳)2万VND、(6歳未満)無料
Facebook: @baotangchungtichchientranh
ウェブサイト: www.baotangchungtichchientranh.vn
※2025年9/1(月)~9/3(水)ホーチミン市の在住登録者に限り入館無料

トンドゥックタン博物館
Bảo Tàng Tôn Đức Thắng

ホー・チ・ミン主席の後任、トン・ドゥック・タン国家主席の記念博物館では、3階に1945〜1969年のプロパガンダを展示。抗戦や団結、愛国心を訴える作品や、家畜を育て、対仏抗戦に参加し、識字教育を受ける姿を描いた『ある愛国的な家族』など物語仕立ての連作が並ぶ。

Information

住所:5 Ton Duc Thang St., Dist. 1, HCMC
電話:(028) 3829 7542
営業時間:(火~日曜)7:30~11:30 / 13:00~17:00
休日:月曜
料金:無料
Facebook: @baotangtonducthang.vn
Instagram: @tonducthangmuseum
ウェブサイト: baotangtonducthang.vn

メッセージ性とインパクトで勝負!

社会主義キッチュなグッズの魅力

ベトナムのプロパガンダアートは、「社会主義キッチュ」の形でも存在する。色鮮やかなポスターや、力強いスローガンがデザインされたグッズは、どれも目を引き存在感たっぷり。社会主義的なユーモアやメッセージを込めたパロディ版もあり、政治的意義と楽しさが交錯するアイテムとして人気を集めている。

切手

2025年はベトナム統一50周年、独立80周年の記念切手を発売
1枚4000VND~/②

「自由と独立ほど尊いものはない」
©Cong Ty Tem Viet Nam

「父母と子どもたちを守る」
©Cong Ty Tem Viet Nam

「南北一つの家、山河一つの帯」
©Cong Ty Tem Viet Nam

マグネット

有名なプロパガンダアートから、くすっと笑えるパロディ版まで。1万VND~/⑧

「祖国を守る戦士であることこそ栄光である」

「仕事なんて忘れて、ビールを飲もう!」

Tシャツ

カラーやデザインのインパクト大。希望の図柄での印刷にも対応。15万VND/③

「1975年4月30日の南北統一記念」

「1972年ハノイB52撃墜10周年」

ポストカード

有名作品からパロディまで豊富なラインナップ。2万2000VND/⑥

「テトは昔も今も、子どもはお年玉が好き」

「聞き逃すより、聞き間違える方がまし」

ショットグラス

「祖国の国境を守ろう」などの文字入りや、赤と黄色、青色のベトナムカラーあり。各6万VND/⑧

ポスター

戦時中からコロナ禍まで、色とりどりの啓発ポスターが書店や専門店で入手できる。12万VND~/⑤&⑦

「1954年ディエンビエンフーの戦い」

「ネコを飼って作物を守ろう」

スマホケース

北部での石炭採掘の促進をテーマにした108ピースのパズル。(18x24cm)45万VND~/①

「石炭が生まれ、私たちは豊かで幸せに」

ジクソーパズル

北部での石炭採掘の促進をテーマにした108ピースのパズル。(18x24cm)45万VND~/①

「石炭が生まれ、私たちは豊かで幸せに」

“愛国” 石けん

ベトナム建国80周年を記念して、ホー・チ・ミンが描いた「ベトナム独立」のイラストを印刷。4万5000VND/④

❶ コレクティブメモリー
Collective Memory

住所:12 Nha Chung St., Hoan Kiem Dist., Hanoi
電話:098 647 4243
営業時間:10:00~18:30
休日:なし
Facebook: @collectivememory.vn
Instagram: @collectivememory.vn
ウェブサイト: collectivememory.vn

❷ ベトナム郵便切手
Công Ty Tem Việt Nam

【ハノイ】
住所:14 Tran Hung Dao St., Hoan Kiem Dist., Hanoi
電話:(024) 3933 0000
【ホーチミン市】
住所:18 Dinh Tien Hoang St., Dist. 1, HCMC

営業時間:【ハノイ】(月~金曜)8:00~17:00
【ホーチミン市】(月~土曜)8:00~17:00、(日曜)8:00~11:30
休日: 【ハノイ】土・日曜
【ホーチミン市】なし
Facebook: @vietnamstamp.com.vn
Instagram: @vietnamstamp
ウェブサイト: vietnamstamp.com.vn

❸ハイヴァン印刷&刺繍ショップ
Hai Van Printing and Embroidery Shop

住所:1A Ly Quoc Su St., Hoan Kiem
Dist., Hanoi

電話:098 988 8264
営業時間:8:00~19:00
休日:なし

❹シンズオック生薬共同組合
Hợp Tác Xã Sinh Dược

住所:59 Hang Duong St., Hoan Kiem
Dist., Hanoi

電話:093 605 0064
Facebook: @SinhDuocCoop
Instagram: @hoptacxa_sinhduoc
Shopee: @htx_sinhduoc_2023
ウェブサイト: shop.sinhduoc.vn

❺タンロンギャラリー
Thăng Long Gallery

住所:16 Hang Bac St., Hoan Kiem Dist., Hanoi
営業時間:9:00~22:00
休み:なし
メール:thanglong.galllery@gmail.com
Facebook: @thanglonggallery

❻モノコンセプト(オンラインショップ)
Mono Concept

電話番号:081 588 6079
Facebook: @monoconcept
Instagram: @monoconcept
ウェブサイト: www.monoconcept.com.vn

❼ライスオールドプロパガンダポスターズ
Rice Old Propaganda Posters

住所:159 Pham Ngu Lao St., Dist. 1, HCMC
電話番号:083 608 5678
営業時間:9:00~18:00
休み:なし

❽サイゴンキッチュ
Saigon Kitsch

住所:43 Ton That Thiep St., Dist. 1, HCMC
電話番号:(028) 3821 8019
営業時間:8:00~22:00
休み:なし
Facebook: Saigon Kitsch
Instagram: @saigonkitsch_shop
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