2024.05.03

ラダー教育のシステム構築を通じて、ベトナムの看護職の未来に貢献

ラダー教育のシステム構築を通じて、ベトナムの看護職の未来に貢献
日本最大級の総合医療・福祉グループとして病院や介護施設など130を超える医療施設をもつ「IMS(イムス)グループ」。日本国外での医療支援も積極的に行い、2022年にはベトナム看護協会とともに約2年間の長期にわたる看護教育研修を実施した。自らベトナムを訪れ指導した北神洋子副理事長に、ベトナムへの想いを訊ねた。

取材・文/杉田憲昭(Grafica)

研修を行ったきっかけは何ですか?

IMSグループでは「IMS国際医療支援機構(IIMA)」を通じてミャンマーや中央アジアほか、各国で医療支援を行っており、2015年には「イムス・インターナショナルメディカルサポート・ベトナム(IIMS-VNM)/IMS International Medical Support Vietnam」を設立。ハノイのホンゴック病院へ看護教育研修を行うなど、次第にベトナムとの関わりが増えていました。

そうした中、ベトナム看護協会(Hiệp Hội Điều Dưỡng Việt Nam)のファム・ドゥック・ムック(Phạm Đức Mục)会長が訪日された際に面会し、IMSグループの看護教育に関してお話したことから、今回の研修をお手伝いすることになりました。

どのような研修を行いましたか?

ベトナム各地の病院から看護部長や教育担当者が参加しました。看護師の知識や技術を段階的に習得する「ラダー教育」をテーマに、1年目は評価基準となるラダー作りを、2年目にラダーを用いた看護教育プログラム作りを行いました。ベトナムでは看護職に対し2年間で48時間の研修が定められていますが、毎年同じ内容のため、経験年数や能力に沿った新しい教育システムが求められていたんです。

とはいえ、国によって医療環境や看護環境、国民性が異なる上、病院ごとに専門も違います。そこで日本のまねではなく、病院の理念や方針、具体的な患者データをもとに、各々に必要な看護師像を目指すための独自のラダーを作成してもらいました。時間はかかりましたが、あくまで自分達で作ることを軸に行いました。

約2年間にわたる研修を終えて開催された最終報告発表会。各々の病院で積んだラダー教育の実績は、地域の他の病院にも広がっていく

ベトナムの看護環境の特徴や印象は?

たとえば日本では呼吸器など機器の管理から食事、排泄のケアまで、全ての生活支援を看護職が行います。一方、ベトナムでは患者の家族がこれらを行うことが多く、看護職は医師の治療方針に沿った点滴や治療薬の投与など医療処置が中心です。疾患や状態を把握した上での患者との関わり方や、家族への教育などに視点の違いを感じる部分もありました。

しかし、重要なのはベトナムに合った質の高い看護であり、日本と同じ必要はありません。自分の病院で必要な看護師を育てるにはどうするのか。どんな知識の勉強が必要か。それを自分達で考えることが大切なんです。

研修を終え、現地の看護職に思うこと、
今後の展望を教えてください。

ムック会長から「どんな風に魚を釣ればよいか。それを自分達で考えるように教えて貰っている」と言われるほど、研修では宿題も多く出しました。しかし、全員が宿題をこなし、ベトナムには無かったラダーという考え方やシステムを積極的に受け入れようとする姿に、成長に対する高い柔軟性を感じました。

どの国も医療や看護の考え方は同じですが、社会のあり方で環境や患者との関わりに違いが生まれます。今回作ったシステムも、現場レベルに落とし込んだ際に問題が見つかるかもしれません。そこで今後もIMSグループではフォロー研修など継続的な応援をしていきます。そのためにも、ベトナムでより良い看護ができるよう、ぜひ皆さまからの看護職に対する一層の理解と支援をいただけると嬉しいですね。

研修会では参加者が各々に自身のラダーをまとめていく中で、北神副理事長からの個別指導も行われた

北神洋子
きたがみ ようこ

IMSグループにて新戸塚病院看護部長、本部事務局看護局長を歴任。外国人看護師の支援にも携わり、2013年より特定非営利活動法人 国際看護師育英会副理事長、2016年より一般財団法人 IMS国際医療支援機構副理事長、2019年よりIMSグループ副理事長を務める。