2023.10.01

何がウケる? 何がNG?

ベトナムの笑いのツボはどこ !?

ベトナムの笑いのツボはどこ !?
基本的に前向きで楽観的なベトナム人にとって、笑いはとっても大切な要素だ。ベトナムの「笑いのツボ」はどこなのか、日本との違いは何なのかを探るべく、昔ながらの風刺画や笑い話のほか、最近はやりのフレーズやミームまでを探ってみた。日常生活で使えるネタやNGネタもおさえて、ベトナム暮らしに笑いを増やそう!

※記事の情報は、2023年8月取材時点のもの
目次

社会風刺からエンタメまで

ベトナムの笑いの歴史

昔から、ベトナムにはいろんな所に笑いがあふれている。くすっと笑える小話はもちろん、風刺をきかせた版画や演劇にも笑えるポイントがいっぱいだ。また近年ではユーチューブ(YouTube)やフェイスブック(Facebook)などで映画や小説のパロディが人気なほか、日常生活や職場をネタにした動画が増えている。

ドンホー(Đông Hồ)版画の有名作品『ネズミの結婚式/Đám Cưới Chuột』。封建時代を揶揄しており、ネズミ(庶民)が妻を迎えるために、ネコ(役人)に魚などの賄賂を渡す様子を描いている

社会問題を風刺する庶民の知恵

メディアがなかった昔のベトナムにおいて、人々は詩やことわざなどで悪習を風刺し、怠惰な夫や淫婦、腐敗した役人などのキャラクターを立てて社会問題を皮肉るネタが多かった。

特に詩は、六音と八音で交互に韻を踏むリズミカルな「六八体/Thể Lục Bát/體六八」で書かれて広まった。10~19世紀に中国から漢字が伝わると、金持ち、役人や王の悪い習慣を嘲笑する挙人グエン・クイン(Nguyễn Quỳnh)、当時ベトナム女性の人生の自虐ネタにした詩人ホー・スアン・フオン(Hồ Xuân Hương)などよる風刺詩が流行った。

20世紀に入るとフランス文学の影響により、東西の文化が混在するベトナム社会を皮肉った小説『幸運/Số Đỏ』(ヴー・チョン・フン/Vũ Trọng Phụng、1937年)などが生まれた。

ミュージカルのようなベトナム北部の伝統演劇「チェオ/Chèo」には、お笑いキャラが欠かせない。役人の召使、占い師、魔法使いたちが、面白おかしい行動や発言で他人または自分をネタにする
©Nha Hat Cheo Viet Nam

現代社会のストレスを和らげる笑い

1990年からはテレビの普及に伴い、お笑い番組が増加。特に『スアン・ヒンの笑正月/Hài Tết Xuân Hinh』のような旧正月テト(Tết)の帰省や初詣などをテーマにしたコントが非常に人気となり、収録されたCDは数十万枚が販売された。新春は恋愛コメディ映画の上映も多い。

2010年からはユーチューブで映画や小説のパロディ動画が人気となったほか、フェイスブックに投稿される4コマ漫画や日常生活をネタにした3~5分のコメディ動画が増え、ティックトックでは30秒ほどの動画のおもしろフレーズがZ世代のトレンドに。さらにホーチミン市をなどの都市部ではスタンドアップコメディも登場し始めている。お笑いの楽しみ方は、紙媒体から動画へ移り変わっており、社会問題を風刺するものは少なく、主に娯楽目的だ。

20年以上にわたり大晦日に放送されるテレビ番組『年末に会いましょう/Gặp Nhau Cuối Năm』は北部で人気。かまどの神「ターオクアン/Táo Quân/灶君」が毎年天国で玉皇(Ngọc Hoàng)上帝に人間社会の事情を報告する設定で時事問題を取り上げる
©VTV

ベトナム南部にはコメディ劇場があり、南部の人々の日常生活をテーマにした喜劇が多い。とくに女装した男性が登場するドタバタ喜劇などが非常にウケている
©San Khau Kich Truong Hung Minh

人気のオンライン動画

YouTubeのパロディ映画 ベトナム昔話、人気の音楽ビデオ、短編小説、中国ドラマなどのパロディ映画を、芸能人が演じているのが人気の秘密だ。人気の流行ソングの替え歌などもある

Facebookの日常会話の動画 恋人や同僚などとのやり取りの設定で、友達から恋愛アドバイスを受けるなど日常生活をテーマにした3~5分の会話の動画。メディア会社によって作成されるものが多い

TikTokのショート動画 日常の生活ネタ、また「ヒップホップは決して死なない、あなたへの愛は決して間違ってない/Hip Hop never die, yêu anh never sai」など、恋愛系のトレンドネタがZ世代に人気

あなたは笑える!?
教科書に載っている笑い話

ベトナム人なら誰でも知っている、ベトナムの国語の教科書に出ている笑い話を3つご紹介。この面白さ、わかるだろうか?

Thầy Bói Xem Voi
盲目の占い師がゾウを見る
5人の盲目の占い師が集まって、「私たちは誰もゾウの姿が分からない」と口々に不満を言っていた。そこへ突然、「ゾウが通るぞ!」と人々が言うのを聞いて、5人はみんなでゾウの飼育員にお金を渡し、ゾウを立ち止まらせて見守るように頼んだ。

占い師たちは一人ずつゾウに触れていった。1人は牙に、1人は長い鼻に、もう1人が耳に、別の1人が足に、最後の1人が尻尾を触った。その後、5人は座って感想を話し合った。

長い鼻を触った占い師は、「なるほど、ゾウはヒルの形のように細長いのですね」と言った。

牙を触った占い師は、「ちがいますよ! 天秤棒と同じくらいの長さでした」と言った。

耳を触った占い師は。「どこがですか! 大きな編みうちわと同じはずです」と反論した。

足を触った占い師も反論した。「そんなわけがありません。ゾウは太い柱のようでした」

最後に尻尾を触った占い師は、「みんな間違っていますよ! ゾウは古いほうきみたいです」

誰もが自分が正しいと主張し、誰も譲らなかったので、取っ組み合いの喧嘩となった。

Chuyện Dê Đực Chửa
妊娠した雄ヤギの話
タインホア(Thanh Hóa)省に住む男児クイン(Quỳnh)は、神童として有名だった。王様は、それが本当か確かめたいと思い、各村にこう命じた。

「妊娠している雄ヤギを王宮におさめること。2ヶ月後までに用意できないときは罰を与える」

村人たちは心配するばかり。そこでクインは父親にこう言った。

「お金と米を用意するよう、村の人たちに頼んでください。僕が妊娠している雄ヤギを見つけますから」

これを聞いた村人たちは、半信半疑ながらも、その通りにせざるを得なかった。

翌朝、クインは父親と都に向かった。ちょうど王様が東門を通る時に着いたので、道端の排水溝にしゃがみ込み、王様が近づくと突然大声で泣き始めた。王様が兵士に泣いている子ども連れて来させると、クインは王様に気づかないふりをして、さらに大きな声で叫んだ。

「私の母は数年前に亡くなりました。私は赤ん坊を抱きたいのに、父はなかなか産んでくれないのです」

「なんて愚かな子だ。お前の父親は男だ。赤ん坊を産めない」

クインは動きを止め、厳かにこう言った。

「それなのに、王様は私の村の人たちに、妊娠した雄ヤギをおさめろとおっしゃるのです!」

王様は大変驚いて、この子が有名な天才児なのだと悟ったのだった。

Lợn Cưới Áo Mới
婚礼用の豚と新しい服
見せびらかすのが好きな男がいた。ある日、男は新しい衣服を仕立てると、すぐにそれを着て家の前に立ち、誰かが通り過ぎて褒めてくれるのを待っていた。

朝から午後まで立ち通しだったものの、誰にも褒められず、男はとても悔しがった。

そこへ突然、同じく自慢好きの男が大声で話しかけてきた。

「私の婚礼用の豚が、ここに走ってきませんでしたか?」

彼はすぐに自分の服の裾をひけらかしながら、こう言った。

「この新しい服を着てから、豚がここを走っていくところは1度も見かけていませんね」

こんな笑いも!

ベトナムのスパイスがきいた風刺マンガ

©Thanh Phong

“夫は巧みな運転手、妻は未亡人” 絹「ルア/Lụa」と未亡人「ブア/Bụa」のダジャレ。”運転上手”(Lái Lụa=シルクのように滑らかな運転)の夫が亡くなったことを揶揄し、スピード運転を批判している。

©Thanh Phong

”隙間があったら入り込め!” 線路立ち入り禁止のバリケードがあっても、隙間さえあればバイクで乗り入れていくのがベトナムの”常識”。そんな交通マナーの悪さを描いている。

©Zin

”ぼったくり” 「ぼったくり/Chặt Chém」のブラックジョーク。外国人観光客がベトナムでサービスを利用するとき、法外なぼったくりにあうことを風刺している。ベトナム観光誘致にまつわる問題としてメディアがよく取り上げるテーマだ。

©Zin

”ヴィラ/別荘/スーパーカー/個人資産/妻の資産/子どもの資産/公金”
汚職を批判する風刺マンガ。太った虫は、公的資金を使って私腹を肥やす貪欲な役人を象徴。

心をつかむフレーズ集
ベトナム語の“笑い辞書”

ベトナム人同士の会話では、雰囲気を盛り上げるユーモアのあるフレーズが欠かせない。対面での会話でも、オンラインでのやり取りでも、ジョークやミーム(話題のネタ)を取り入れれば喜ばれること間違いなし! トレンドもおさえておけばバッチリだ。

【Thank you Vinamilk!】
タイン・キュー・ヴィナ・ミュー
<意味> ありがとう

「キュー/You」と「ミュ―/Milk」が韻を踏む。大手ブランド「ビナミルク」のCMでも使われる、ベトナムならではの鉄板ネタ。

【Tuyệt vời ông mặt trời】
トゥイェット・ヴォーイ・オン・マット・チョーイ
<意味> 太陽のようにすばらしい

「ヴォーイ/Vời」と「チョーイ/Trời」のゴロあわせ。とにかく何かをほめたいときに使えるフレーズ。部下をほめる言葉として有効だ。

【Cu-te hột me】
クーテ・ホット・メー
<意味> タマリンドの種のようにかわいい

学生がよく使う言葉。「かわいい」の代わりに使える。「この子はクーテ・ホット・メーね」など。

【Chán như con gián】
チャーン・ニュー・コン・ザーン
<意味> ゴキブリのようにつまらない

「つまらない/チャーン」と「ゴキブリ/ザーン」のゴロ合わせ。退屈な気持ちを表す。「めっちゃ暇! つまんなすぎてゴキブリじゃない?」など。

【U là trời!】
ウー・ラー・チョイ
<意味> びっくりした! まじか!

驚きや怒りを表す「オーイ・チョーイ・オーイ/Ôi trời ơi」と同じで、Z世代による新バージョン。驚いたとき、がっかりしたときに。

【Báo quá báo!】
バーオ・クアー・バーオ!
<意味> いい迷惑!

結果責任を問う中国・後漢時代の刑罰「バーオコー/Báo Cô/保辜(ほこ)」が由来。周りを巻き込んで迷惑をかける行為や骨折り損な行動を嘆くフレーズ。

【Gét gô!】
ゲット・ゴー!
<意味> Let’s go! レッツゴー!

英語「Let’s go!」の間違った読み方。何かを頼んだり、挑戦するときに使われる。「腕立て伏せ100回、ゲット・ゴー!」など。

【Ét o ét】
エット・オ・エット
<意味> S.O.S 助けて!

英語「S.O.S」のベトナム語読み。困ってどうしていいかわからない気持ちを表現する言葉。「お金がなくなった! エット・オ・エット!」など。

【Thả thính】
ター・ティン
<意味> じらす

直訳で「ター/Thả」=「振りかける」、「ティン/Thính」=「釣り餌の煎り米粉」。相手に気を持たせるような思わせぶりな振る舞いを指し、恋愛において心を弄ぶようなネガティブな意味で使われる。

【Anh/Em làm gì đã có người yêu.
Anh/Em đang sợ ế đây này】
アイン/エム・ラム・ジー・ダー・コー・グオイ・イエウ・ダウ
アイン/エム・ダン・ソ・エー・ダイ・ナイ
<意味> どうしたら恋人ができるんだろう。行き遅れちゃう

「エー/Ế」=「行き遅れ、売れ残り」。誘い文句としてよく使われる。自分が独身だと相手にアピールして、相手を受け入れる用意があることをほのめかす。

ベトナムらしいミームで
チャットをもっと盛り上げよう!

©Page Nay Khong He Trend

「締め切りを早めるアップ(アプリ)って何かあるかな?」
「アップルック(圧力)だよ」
ベトナム語で「アプリ」は「アップ/Áp」と読み、「圧力、プレッシャー」の「アップ・ルック/Áp Lực」にかけたネタ。メディア会社の仕事の大変さに関連したミームは多く、言葉遊びを駆使した色んなバージョンの会話がある

「私は70歳を超えていますが、このような事件には1度も遭遇したことがありません」 テレビ番組でのコメントのミーム。奇妙なこと、ばかばかしいこと、これまでに見たことのないことにびっくりする感情を表す

©My Dieu

SNSで人気の猫「ミー・ジエウ/Mỹ Diệu(美妙)」。丸々と太ったお腹をさらけ出して座っている姿は、食べるだけで動かない人のよう。長く座りすぎて、後ろの壁にヒビが入ってしまっている。怠け者で、周りのことを何も気にしない態度を表現する

日本人が見たベトナムお笑い事情あれこれ

ウケるネタは意外とシンプル!?

日々ベトナムのお笑いに触れることが多い、ベトナム芸能界にかかわりの深い日本人たちに、感じたことを聞いてみた。ベトナムと日本の笑いのツボの違いや、ウケるネタ、ウケないネタなどを知って、ベトナムの笑いのツボを押さえよう!

(左)中川新介さん(ボケ担当)
「ベトナム人の方に向けたコントをやったり、イベントやテレビ番組に出演したりしております!」
(右)井手一博さん(ツッコミ担当)
「ベトナム語のティックトックやユーチューブに力を入れています! コントをベトナムに広めたいです!」

ダブルウィッシュ/Double Wish
2008年に熊本で結成したお笑いコンビ。吉本興業の「アジア住みますプロジェクト」で、2015年6月からベトナム・ホーチミン市で日々奮闘中。日本紹介番組にレギュラー出演するほか、現地タレントやYouTuberとのコラボなども積極的に行っている。

ベトナムと日本の笑いのツボの違いとは?

中川さん 日本人は、いろんな種類のお笑いを見ているので、コントの設定などを想像してくれるんです。でもベトナムではそれが通用しません。例えばコントで、蚊が飛んでいる表現として「ブーン」と言っても、何を指しているのかわかってもらえなくて。だから、絵を描いたり、誰か何の役をやるのかをはっきりさせて、すべてちゃんと見せる用意が必要ですね。

井手さん コントだと、女役男役とか、何かになって演じることがあるのですが、ベトナムでは僕たちはあくまで僕たち本人としてしか見られないんです。ステージに出て自己紹介などしたあと、途中で女装に変えてステージに戻ったら、「ああ、LGBTなのね」と思われていたみたいで。僕らはカップルの設定でコントをやりたかったんですけど、女性の気持ちをもった男性としてしか見られなかったみたいですね(笑)。

ステージですべったときは、どうしますか?

中川さん それはそれでボケるしかないですね(笑)。ショートコントだと、日本なら僕らの設定をお客さんが頭の中にイメージしてくれて、足りない部分も考えてくれるんですけど…、ベトナムにはボケ・ツッコミも漫才もないし、ベトナムのスタイルに合わせてやっています。

ベトナムではどんなネタが喜ばれますか?

中川さん 女装ネタ「ベーデー/Bê Đê」は面白がってくれて、けっこうウケやすいですね。あとは僕らは外国人なんて、やっぱりベトナム人の方にとって、外国人はベトナムをどう見ているか、みたいなことは気になるようで、見てくれます。

井手さん やっぱりマムトム(Mắm Tôm)ですね(笑)。「マムトムがくっさいね!」と言ったら、だいたいウケます(笑)。当たり前かもしれませんが、ベトナム人の方はベトナムのことが、めっちゃ好き。だから、僕らがベトナムのことを「好き!」と言ったら、喜んでくれています。「ベトナムの食べ物を美味しいと思ってくれて、私たちも嬉しいです」という感覚なんです。マムトムはベトナム人でも嫌う方も多いじゃないですか。それを外国人が体験して、リアクションすると笑ってくれます。

中川さん 「くっさい」と思っているのは共通のことで、「くっさいけど、旨いよね」というのがいいですよね。

井手さん バイクとかも日常あるあるですよね。それを外国人の僕らが体験することで、「わあ、分かるよね。外国人もそうなんだ!」という共感から笑いが生まれます。

中川さん また、ベトナム語で話すことを喜んでくれる人もいます。「こんにちは、ダブルウィッシュです!/Xin chào! Chúng tôi là Nhóm Double Wish(シン チャーオ チュン トーイ ラー ニョーム ダボーウィッシュ)」などとベトナム語で挨拶すると、「ベトナム語でやってくれるんだ!」とすごい盛り上がってくれています。かなりネタがやりやすいです(笑)。

井手さん ベトナムに来たばかりの当時は、セットなどをちゃんと用意しないと状況を把握してくれなかったんですけど、最近は若い人の想像力が豊かになっているから、ショートコントをやると普通にウケてくれています。前よりやりやすくなりましたね。それと、わかりやすいネタがウケるんですけど、「本当にベトナム人が好きなのは、かしこい笑いだよ」と言われたこともあります。風刺のように社会を切ったり、言葉で遊んだり、大人っぽい知的な笑いが好まれますね。

中川さん 特にハノイにその傾向が強いです。南ではドタバタがいいかもしれません。北と南は笑いの感覚がだいぶ違います。ノリがいいのは間違いなく南で、例えばクイズを出して、「はい、はい、はーーーい‼」と勝手に手が上がるのは南です(笑)。北部は落ち着いている方が多い印象です。

ウケなかったネタを教えてください。

中川さん テレビで僕が女装して、“口紅を塗ってたらはみ出ちゃった”、みたいなボケをやったら、スタッフが収録を止めて、「それは汚いから、やめて」と言われました。ずれた口紅みたいに「汚いこと」はテレビ的にダメみたいですね。テレビではけっこう厳しくて、パンツなどもNGネタです。

井手さん かっこよくしていないと、やっぱりダメみたいです。僕はテレビで、“眼鏡をかけたまま水に落ちちゃって、上がったらメガネがめっちゃずれてた”というネタをやりました。それを見た瞬間、カメラマンさんがカメラを外しました(苦笑)。眼鏡がずれているのはかっこよくないので、撮っちゃいけない! となったみたいで。

中川さん 僕らは、ベトナムでは”テレビに出る芸能人”という立ち位。ベトナムの方にとって、芸能人がキレイでいなくてはならない感覚があるんです。

ベトナム人に絶対にウケる、
とっておきのネタを教えてください。

井手さん さっきの「マムトム」のお話ですね! ティックトックで投稿したら、300万ビューも獲得しました(笑)。あとは、バイクで滑ったなどバイクがらみのネタは、145万ビューでした。女装などもウケはいいですが、最近は変わっていますよ。僕は今、ベトナム全国をバイクで旅しているんですが、田舎の人は外国人に会ったこともないし、ベトナム料理以外のものを食べたこともないんです。都市部と地方の知識レベルや経験値はめっちゃ差があります。田舎の一部では、まだまだ女装ネタがウケますが、LGBTに慣れている都市では普通のことなんです。

中川さん ウケるワードとしては、絶対「ファーケー/Pha Kè」です!  「ファーケー」はフェイクのこと。英語のベトナム語読みですね。この言葉を言うだけで、けっこう盛り上がってくれます!

岡本有矢さん ベトナム在住歴6年。ベトナムの総合エンタメメディア企業「エムシーヴィー/MCV」でエンタメ最前線に携わる。ベトナムの生活・エンタメ業界についての知識が深い。

①笑いのツボの違い

ベトナムの笑いはノリツッコミが浸透しておらず、ストーリーテリングな笑いや、女装系の方のスタンスが笑いを引き起こすケースが多いようです。「え、んっ!?」となるナンセンスな笑いが特にSNSを中心に定番となりつつあります。フェイスブックでは、ベトナム語独特の言葉遊びがロングランで人気を博しているので、これが笑いのツボの定番かと。大喜利コンテンツ(映画などのシーンを並べてセリフをつける)は、万人にわかりやすいストレートな笑いです。

②ウケるネタ

LGBT系の人が展開する毒舌調の物言いと、わかりやすいものがウケています。口コミが最重視されている背景をベースに、自分ではなかなか言えないところを、誰かが思いっきり言うのを目にすることで、「それ自分も思ってた! 笑」と共感→笑いを生み出す流れなのかもしれません。

③NGネタ

ノリツッコミを誘うようなフリは、人を選ばないと大滑りして、知性を疑われるような冷たい視線で見られた経験は多いです。「え? 何言ってるの? 大丈夫?」となってしまいます…。

④絶対にウケるネタ

日本人の自分が小笑いを取れるパターンとしては、①適切なタイミングで、スラングやトレンドワードを使う(めっちゃベトナム人みたいな話し方するやん! という感覚を生む)、②男性でも、すこし女性チックな話し方を適切なタイミングで使う、③すごくシンプルなボケを出す、です。

例①:「彼氏いますか?」→「いません」→「え、いない? 僕もいないです!」
例②:「ベトナム語わかりますか?」と聞かれて、「いや、全くわからないです」とベトナム語で返事する

日本語でもそうですが、タイミングと相手を間違うと大滑りするので、心を強くしてひたすらボケの弾をしこみ、100回中1回小笑いがとれたらいいやと思ってがんばっています。

清水一行さん タレントマネジメントやキャスティングを行う「グルーピーベトナム」主宰。本誌コラム『ベトナム芸能事情ココだけの話!』を隔月連載中。

①笑いのツボの違い

軽い下ネタでウケます。昔、ベトナムで有名なお笑い芸人ホアイ・リン(Hoài Linh)がイベントで爆笑を取っていて、知り合い曰く、「今、彼が何を言っていたかわかります? チン●ンですよ。チン●ン」。...日本人が聞いても全然面白くないんですが…。

②ウケるネタ

映画だと股間にものが当たったり、同性愛や貧乏をいじるネタですね。

③NGネタ

当時38歳の不動産会社社長の日本人が、ベトナム人に「まだ18歳になってないの/Em chưa 18 à?」とベトナム語でボケて、ドンずべりしてました。また、「なんで結婚しないんですか?」っていじりに、「離婚したら財産が半分になるのが嫌だから」ってボケたら、言葉通りに捉えられてしまいました…。

④絶対にウケるネタ 独身をいじるネタはウケますね。日本的には完全アウトですが…。「負け犬/Kẻ Thua Cuộc」は、日本語を勉強しているベトナム人には絶対にウケます。人を動物に例えるところがツボみたいです。また先日、「30歳までには結婚しましょう」のスローガンが発表された時に、“行き遅れの人”として知られる歌手のビック・フオン(Bích Phương)がSNSで「気分が…/Tâm Trạng...」と自虐的なコメントを投稿して話題になりました。
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