山本 悠楓さん/「おむすび」代表

自分が口にできるものだけを届けたい いつかこの国に残していくために

カンボジアで始めた ゼロからの「豆富」作り カンボジアで2013年から豆腐作りを始めた山本悠楓さんは食品業界とは全く無縁だった。 「息子と友人がカンボジアで始めた製麺業の現地管理で夫と行くことになりました」 その際、豆腐作りも勧められた。 「豆腐なんて今まで作ったことがないのに。上海まで機械を買いに行って作り方を教えてもらいました」 半年後に開業予定のイオンモール1号店に狙いを定めて豆腐作りが始まった。 「それができなかったんです。何をやっても固まらない。これでもだめ、あれでもだめで…」 一方、出店の話は順調に進展。そこで自宅がある神戸の豆腐屋を頼った。 「あの世界は細かいレシピがないんです。蛇口から出てる水を指して『これが絹ごしの量や』とかそんな具合で。2週間毎日、豆腐作りを見させてもらいました」 3ヶ月後には木綿豆腐が完成したが、今度は絹豆腐が作れない。 「型から出したら崩れていって(笑)」 日本の機械を入れるなどして、ようやく完成したのは開業の1ヶ月前。店を開くと豆腐だけでなく、豆乳がよく売れた。 「初日の午前中だけで100本が完売。現地の豆乳は水に色と風味をつけただけのものが多く、『本物の豆乳ですよー』と試飲してもらったんです。砂糖を入れない大豆の甘みがありますから」 一方、手作りだからこそ傷みやすく、モールの店舗で在庫がもてないのは課題だった。 「防腐剤も探しましたが結局、自分が食べられないものをお客様には売れないんです」 「苦手やっても やらないとしゃあない」(笑) 最終的には自分で店舗を構え、豆腐の卸しや弁当・和菓子を宅配。だが、その先が見えずに悶々としていた時に、ベトナムで会社を経営する友人が訪ねてきた。 「ベトナムより10年遅れているわね、20年したら売れるわよ、と言われて。『そんなんこっちの命がないがな』と(笑)」 そこで約2週間後に1泊2日で訪れたホーチミン市では2日目に物件を契約し、8月にはベトナムへ。2016年12月に手作り豆腐の「おむすび」を開店した。 「私は関西人じゃないですか。言ったらすぐ(実行)なんです。でもこちらは物事がなかなか進まずイライラしましたねぇ。今はあきらめ半分です(笑)」 やがて評判は広まり、今ではみたらし団子やわらび餅などの和菓子、総菜なども作る。 「経験がなくても、やらないとしゃあないから(笑)。髙島屋の臨時出店や、おから味噌の教室も時々開いています」 人材探しにも苦労したが、料理好きなスタッフと2人で頑張ってきた。 「自分は年なので、いずれこの仕事をこの国に置いていきたい思いがあるんです。豊かさや幸せを感じてもらえる『豆富』を残していけたら。人と人とを結ぶ思いを込めて『おむすび』の名前を付けましたから」
山本 悠楓 やまもと ゆうか   大阪府生まれ。2013年からプノンペンで豆腐作りを始め、2016年にホーチミン市に拠点を移し「おむすび」を開業。注文を受けてから作る無添加の豆腐や豆乳、おから味噌などの大豆製品や和菓子などを提供。 Facebook: Omusubi おむすび ウェブサイト: https://omusubi.vn
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