29屋的　越南食卓／第42回

アンコムチュア？お食事はもうお済みですか？

ベトナム人が、人の顔を見ると挨拶代わりに言う「アンコムチュア（An Com Chua）？＝お食事はもうお済みですか？」という言葉。特に田舎のお年寄り相手に「まだです」と答えようものなら、「なら、今からうちで食っていけ」と自宅まで連れ込まれてご馳走に与るイベントが発生することがある。　ご馳走してくれるのはいいが、最後には近隣住民の酔っぱらいが集まって、ベトナム焼酎のネプモイ（Nep Moi）やら謎のドブロクやらの一気呑み大会が始まり、最後の1人がぶっ潰れるまで帰してくれないことになったりもする。　他人に親愛の情を示しつつ仲良くなる手段として「酒食を共にする」というのは、飽食の21世紀ニッポンから来た我々が考える以上に有効かつ重要なものなのかもしれない。食欲という人間の本能に訴えつつ、自分の財力、センス、マナーをさらけ出す一方で、相手の人品骨柄を見極めるきっかけにもなる。フィリピンのルバング（Lubang）島で生き残った小野田少尉が投降した後、初めての食事で見せた完璧なテーブルマナーによって、受けた教育の高さを見せつけた如く。あるいは、木曽義仲が猫間中納言に汚い器で山盛りのゴハンを勧めて、その田舎者ぶりが京の都中の笑いものになったかの如く。食事を共にする行為とは、招待する側にとっても、される側にとっても、鼎の軽重を問われる真剣勝負の場であると言っても過言ではないと思うのだ。今月もガッツ！