ベトナムの日本人/巽千華さん/ダンサー

中学生で日本を離れ、海外で学んだダンス ベトナムには枠にとらわれない新しさがある

13歳でバレエを学ぶため中国へ留学 オランダを経て、ベトナムで挑戦を 巽千華さんが日本を初めて離れたのは13歳のとき。中国の瀋陽音楽学院付属中等舞踏学校でバレエを学ぶためだ。 「当時通っていたダンススクールのバレエの先生に、『バレエは積み重ねが大事』と言われて。専門的にやりたいと思っていたら、中国への留学をすすめられたんです」 「やりたいならやってみなさい」と、背中を押してくれたのは母親だった。中国では、朝から晩までバレエの稽古に明け暮れる寮生活を5年間送った。 「普通の学生生活が送りたいと、母に泣きついたことが1度だけあります。でも、『自分で決めたなら最後までやり通しなさい』と、ものすごく怒られました(笑)」 大学はオランダのコダーツロッテルダムダンスアカデミーに入学。卒業後は同国でダンサーとして活動した。 3年経った頃、今後を考え始め、知り合いのベトナム人ダンサーに相談したら、ある監督がトーシューズを履いて踊れるダンサーを探していると聞きました」 それが、現在巽さんが出演中の『ザ・ミスト』の芸術監督であるグエン・タン・ロック(Nguyen Tan Loc)氏だ。 「彼は『シルク・ドゥ・ソレイユ』の振付監督の経験もある。彼についていったらとても勉強になるだろうと思ったんです」 2015年7月、ホーチミン市を中心にベトナムでの本格的な活動を開始した。 演じる意識にもどかしさもあるがベトナムの芸術は新しくて面白い 「幕が開く前の緊張感は、いつまで経っても大好きです」 凛とした表情で語る巽さん。すでに何十回もの公演をこなしている『ザ・ミスト』だが、開演前の暗い静寂に奔るピリッとした空気が心地良いという。 「いつもおしゃべりなベトナム人ダンサーたちが、とても静かで真剣で(笑)」 公私混同を敬遠するヨーロッパを中心に活動してきた巽さんにとって、共演ダンサーのベトナム人たちのプロ意識のあり方に、もどかしさを感じることも少なくない。 「誰かと喧嘩など個人的な理由で、その日の演じ方にわかりやすく影響しちゃうんです」 そう苦笑いをこぼすが、ベトナムは芸術文化の土台を形作っている最中であり、演じる側の意識変化もこれからだと感じている。成長途中だからこそ、生み出されるものもある。 「ベトナムって芸術に対して型にはまった考えがないからか、新しいアイデアがどんどん出てくる。ダンサーが踊るだけじゃなく、プロジェクションマッピングを加えたり、ヒップホップとバレエダンサーが同じ振りを踊ったり。すごく面白いんです!」 ダンスについて嬉々として語る一方で、「辞め時だと思ったらきっぱり辞めるつもりです」と、清々しく宣言する面も見せる。 「人生1度きりなので、あらゆる経験をしてみたくて、実はダンス以外に夢中になれるものも探している最中なんです」
巽千華 たつみちか 神奈川県出身。13歳で中国の瀋陽音楽学院付属中等舞踏学校に留学。 その後、オランダのコダーツロッテルダムダンスアカデミーで学び、約3年オランダでプロダンサーとして活動、2015年に来越。現在は、ホーチミン市民劇場の『ザ・ミスト/The Mist』のほか、多くのイベントやショーに出演する。
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