公演は生命線。僕らの芝居を1回しか見られない方にも何かを持ち帰ってもらいたい。

Yukiza_VNS_ED_201607_photo_001 2016年5月中旬、江戸糸あやつり人形芝居をベトナム演劇と融合させ、意欲的な舞台『野鴨中毒』を披露した結城座。380年の伝統にとらわれず、新たな作品に次々と挑戦するその原動力とは。日越協働制作の舞台裏について、ハノイで舞台初日を終えた十二代目結城孫三郎さんに話を伺った。

―ベトナムの国民的女優との出会い。

2014年に国際交流基金の主催する文化交流事業を通じてレ・カイン(Le Khanh)さんにお会いしました。スターが持っているオーラが備わっていて、非常に人間的にも素晴らしい。「この人と芝居を一本やってみたい」という、個人的なわがままがきっかけなんです。もともと彼女の芝居を見ないでお願いしたんですが、繊細でダイナミックで、人形劇にすーっと自然に入っていく。持って生まれたものなんだなと思います。僕の勘は間違っていませんでした。

―ベトナム青年劇場との協働制作について。

僕らは教えるのではなく、例えば裸電球や工事用のライトでも使えるんだと、青年劇場で表現の可能性を引き出すようにしました。いちばん芝居の世界で危険なのは固定概念です。なんでもありというところから、稽古の間にそぎ落としていくんです。これで完成ではないですが、今の時点で最上のものができたのではないかな。

―ハノイの印象は。

僕はね、申し訳ないんですけれども町へ一歩も出ていない。公演が生命線なので、それ以外のものは省いてしまう。ホテルと劇場の往復しかしていないんです。 ただ、通りを歩いていて、「人の生活感」みたいなものをすごく感じます。きれい、汚いということで日本では切り捨てられてしまった情景、道端でフォーを食べたりしているような情景は、何十年か前の日本なんですね。便利と味気無さは背中合わせです。郷愁だけをもって言うではありませんが、なにかベトナム的な臭いが残っていて、失った僕らからするとそれがうらやましい。

―新しい人形芝居を生み出すための努力とは。

「こういう芝居を今やりたい」と目標を立てたらすぐに手をつけてしまう集団です。僕は知的欲求が強いんですね。四六時中、人形劇を通じた芝居のことを考えています。よく親父に言われたのは、「1日のうちに4時間でも5時間でも、舞台に立っていなくても人形遣いとして芝居のことを考えろ」。考えているとだんだん自分の芝居が嫌になる。それが変化のきっかけで、自分の芝居におぼれてしまうと新たなものに進めないんです。 僕の芝居を1回しか見られないお客様もたくさんいると思いますし、その人のためにどういう芝居をしたら何らかのものをお持ち帰りいただけるか。僕が公演中に一歩も外に出ないのは、芝居に向き合うためです。それが独特の芝居につながっているのかな。
江戸糸あやつり人形結城座×ベトナム青年劇場『野鴨中毒』 イプセンの衝撃作『野鴨』を原作に、脚本・演出を坂手洋二氏が手がける。愛する妻ギーナ(レ・カイン)と娘ヘドヴィクとともに、穏やかな生活を送っていたヤルマール(結城孫三郎)。しかし、ヘドヴィクの出生にまつわる真実が暴露され、平穏な日々は崩壊していく。父を慕う娘が苦悩の末に辿り着いた決意とは……。
十二代目結城孫三郎 ゆうきまごさぶろう  江戸糸あやつり人形結城座十代目結城孫三郎(故結城雪斎)の次男として生まれ、4歳で初舞台を踏む。歌舞伎、能、狂言を学びながら人形遣いの修行を重ね、1993年に十二代目結城孫三郎を襲名。新しい作品づくり、海外公演、入門塾での若手育成にも力を注ぐ。写し絵家元三代目両川船遊としても活躍。
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