あらゆる芸能の中で最も “弱いもの”、それが落語。/笑うこと以外許されない 空間で、本物の面白さを 味わってほしい

2016_05_DT980 2016 年で第 9 回目を迎える「志の輔らくご IN HCMC、芸春~笑う門には春来たる~」が3月26 日(土)に「ニューワールドホテルサイゴン」で開催され、約 450 名の日本人在住者が駆けつけた。この日は演目「猫の皿」と「紺屋高尾」を披露。会場をたくさんの笑いと感動で沸かせた立川志の輔師匠に落語への思いを聞いた。

― ホーチミン市公演の始まりは、富山県人会からの熱烈なラブコールがきっかけだと伺っています。師匠にとっての故郷、富山県への想いは。

おかしなもので、こうやって年に 1 回ホーチミン市で富山県人会の面々と会うと、故郷に帰る以上にエネルギーを感じ濃厚な時間を過ごせるんですね(笑)。富山県というのは、突出したものがなく「魚がおいしい」、「景色がきれい」とか何だか漠然としていて。ただ僕は、この説明し難い漠然とした感じがもっとも素敵な富山県の魅力だと思うんです。説明がつかないから、実際に来てもらって空気を吸ってもらうしかない。それは落語と通ずる部分でもあります。

― 今回で第 9 回目を迎えますが、当初と比べ観客側の落語への反応に変化を感じることは。

「生」 で落語を見て聞いて面白さを体感することを重ねていくと、段々と聞き方が理解できるようになる。「今、笑っていいのかな?」と皆が探り探りだった頃に比べ、笑いどころが分かってきて観客と演者の気が揃ってくるというのが 1 番の変化です。長く接していると演者もやりやすい、観客も聞きやすい。この状態になると、「よし!今度は新しいことを見せてあげよう」という気になりますね。

― 一人で二役、三役とこなす落語。演劇などほかの芸能と異なる魅力は。

2016_05_DT270言ってみれば落語というのは、初めから終わりまで着物を着た人が座布団の上に座っているだけ。つまり、全ての物語は聞いている人たちの頭の中にあり、観客が情景を想像するという仕事をすることで成り立っているわけです。観客の集中力が切れ、仕事をやめてしまえばそこで終わり。そういった意味で落語は、あらゆる芸能の中でも 1 番“弱い”ものなのかもしれません。 会場は飲食、携帯電話、私語は一切禁止。いわば窮屈な思いをするために時間を割き、お金を払っていただいているのですが、この独特の空間でしか得られない面白さがある。それは、同じことを求める人々が集って演者とともに 1 つの空気を作り出し、ただただ「一緒に笑おう」とすることです。今の時代だからこそ、生の落語に触れ「みんなで集まって聞いているだけなのに、何でこんなに面白いんだろう」と、いつでもストップを押せるインターネットや DVD とは違う本物の楽しさを皆さんに感じてもらえればと思います。
志の輔らくご IN HCMC「芸春~笑う門には春来たる~」 2008 年から始まった 落 語 家、 立 川志の 輔 師 匠による「 志の 輔らくご IN HCMC」。第 9 回目を迎える今年は「芸春~笑う門には春来たる~」と題し、演目「猫の皿」と「紺屋高尾」を披露。【主催】志の輔らくご in ベトナム実行委員会、【共催】在ベトナム富山県人会、ホーチミン日本商工会(JBAH)、【協力】在ホーチミン日本国総領事館。
立川志の輔 たてかわしのすけ 富山県旧新湊市出身の落語家。広告会社を退職し、28 歳で立川談志に入門。「伝統を現代に」と試行錯誤し、古典作品から新作に至るまで独自の切り口を盛り込んだ噺と演技力で多くの人々を惹きつける。2015 年には芸術や文化などの分野で功績を残した人に贈られる紫綬褒章を受章。
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