伊藤忍のベトナムめし大全/第79回 大洋マグロのわさび風味/Cá Ngừ Đại Dương Chấm Mù Tạt

main以前は真っ赤なマグロが出てきたが、今回はビンナガ(ビンチョウ)マグロだった

先日、十数年ぶりに中南部の町クイニョン(Quy Nhon)を訪れました。この町を再訪したかったのは、ある料理をまた食べたいという思いから。前回クイニョンに来たのは、私がまだホーチミン市で暮らしていた12年前。仕事仲間の故郷であり、お姉さんが地元で海鮮料理屋をやっているというので訪ねて行ったのです。「クイニョンの名物料理を」と頼んで出てきたのが、今回ご紹介する「カーグーダイユンチャムムータッ/Ca Ngu Dai Duong Cham Mu Tat」(Ca Ngu Dai Duong=大洋マグロ、Cham=付ける、Mu Tat=わさび)です。 驚いたのは、最初にテーブルに運ばれてきた発砲スチロールのトレー。何かがきれいに並んでいるのですが、それがカチカチに凍っていたのです。続いて、カラシナやキュウリ、青いマンゴーなどの野菜の盛り合わせ、小さな器に入ったベトナムの大豆醤油(シーザウ/Xi Dau、ヌックトゥーン/Nuoc Tuong)、チューブ入りのわさびが箱ごと出てきました。 カチカチだった謎の何かはあっという間に暑さで溶け、そこで初めてそれがマグロだと分かりました。薄切りマグロを、ほかの野菜と一緒にカラシナにのせて巻き、わさびを溶かした醤油につけて食べるのですが、カラシナやわさびの辛みとマグロ、そして甘めのベトナム大豆醤油が本当によく合う。当時、わさびはベトナム全土で海鮮を食べる際の調味料としてブームになっていましたが、マグロをわさびと食べるという極めて日本料理に近い食べ方にびっくりしたのを覚えています。店独自のメニューかと思いきや、この料理はクイニョンの海鮮料理店で流行中のメニューだということでした。 色々調べてみるとクイニョンや近くのフーイエン(Phu Yen)には大洋マグロまたは「カーボーグー/Ca Bo Ngu」と呼ばれるマグロ(ベトナムでは、クロマグロやビンナガ、キハダなど8種類のマグロ族の魚を含む48種類をこう呼ぶ)を加工する工場があることが分かりました。ここで加工されたマグロは寿司のネタとして冷凍され、外国へ輸出されます。お店で出てきた発砲スチロールのトレーに乗ったマグロは、その商品がそのまま地元の人にも売られていたものだったのです。 今回の再訪では、この料理がその後どう変化を遂げたのかを見たかったのですが、きちんとクイニョンの定番料理となっていました。現在はマグロ料理の種類もさらに増え、昔のように発砲スチロールのまま運ばれてくることはありませんでした…。

sub大葉と青パパイヤと一緒にマグロをカラシナで包んで食べる

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:http://www.vietnamfoodnet.com
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