伊藤忍のベトナムめし大全/第77回 包み揚げ餃子/Bánh Gối

Exif_JPEG_PICTURE北部のバインゴイ。生野菜やハーブといっしょに魚醤のタレに付けて食べる

今回ご紹介する「バインゴイ/Banh Goi」(Banh=生地から作るものの総称、Goi=枕)は、「大きな揚げ餃子」と言うとイメージが湧きやすいのではないでしょうか? ひき肉や海老、刻んだキクラゲ、春雨、ゆでたウズラの卵などを混ぜた餡を小麦粉で作った皮で包み、油で揚げて作る料理で、お店によっては焼いて仕上げる場合もあります。ベトナム人にとっては、ストリートおやつ的な存在で、持ち帰り用に売られていたり、屋台で食べたりします。 その餡を包んだ形が、ぷっくりとした膨らみをもって枕のように見えることから、北部地域においてはこの名前が付いたようです。そう、実はベトナム各地でこの料理の呼び名が全く違うのです。「バインゴイ/Banh Goi」はハノイなど北部での呼び名、南部では「バインセップ/Banh Xep(Chien)」(Xep=折り畳む、Chien=油で揚げる、揚げ焼きする)、中部では「バインクアイヴァック/Banh Quai Vac(Chien)」(Quai Vac=鍋の取っ手)と呼ばれています。 中国の粉物がルーツで、華僑によって伝えられた点心の一種といわれるこの料理。私は分かりやすく「餃子」と訳しましたが、元になるのは餃子ではなく「盒子(ホーズー)」と呼ばれる中国料理ではないかと思っています。盒子は、中国語で「蓋の付いた小箱」という意味。小麦粉で作った皮を2枚張り合わせたり、半分に折ったりして中に餡を入れ、多めの油で揚げ焼きした料理です。ベトナムの餡の包み方の定番は、1枚の皮で餡を挟んで端を巻き込む方法で、この形が盒子とよく似ています。盒子の中に入れる餡の具材はとても豊富で、キャベツやひき肉、干し海老、ホウレンソウ、炒り卵、春雨などを使います。 南部地方では、生地に米粉やココナッツミルクを混ぜて皮を作る人がいるなど、中国から伝わった料理も、ベトナム人の食文化や味の好みによって独自の変化を遂げています。さらに、食べ方も完全なるベトナム風で、どの地域でも魚醤(ヌックマム/Nuoc Mam)が入った甘酸っぱいタレに付けて食べられています。 この料理に限らず、華僑によってベトナムに伝えられた中国料理はたくさんあります。中国本土や他の国々へと伝わった中国料理と比較しながら食べると、その国の食文化や人々の嗜好がリアルに見えて面白いですね。

Exif_JPEG_PICTURE街角のある店では、揚げ肉まんと一緒に売られていた

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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