伊藤忍のベトナムめし大全/第76回 海鮮揚げ春巻き/Nem Hải Sản

FullSizeRender(7) 衣がついてコロッケの様な見た目に、「これが春巻き?」と思わず驚いてしまう

日本やその他の国と同様、ベトナム料理にも伝統的な料理とは別に、新しく誕生する料理があります。多くの新しい料理は、 ブームになってもしばらくすると消えてしまいますが、定着し、定番ベトナム料理の仲間入りを果たすこともあります。 かつて、フランスに統治された歴史を持つベトナムの食文化は、当時の影響を受けてフランスパンを食べ、コーヒーを飲む習慣が根付いたのはよくご存じのことでしょう。 そんな新しいベトナム料理の中でも、すっかり定番化した料理に「ネムハイサン/Nem Hai San」(Nem=ここでは、北部弁の揚げ春巻きを指す、Hai San=海鮮)があります。こちら10年ぐらい前でしたか、ハノイで大ブレークして以来、今では多くのレストランや食堂のメニューに躍り出る定番料理となっているのです。料理名だけを見ると、「普通の揚げ春巻きの中に海鮮が入っているの?」と思ってしまいますが、写真の通り、普通の揚げ春巻きとは大きく見た目が違います。パン粉衣の揚げものにマヨネーズが添えられて出てくるのですから、料理名を聞かずにこの料理を見ると、ベトナム料理だとは思わないでしょう。 しかし、その衣の下には驚きの食材が!何と、春巻きに使うライスペーパーが隠されているのです。蟹や海老、イカなどの海鮮を玉ねぎやにんじんなどの野菜といっしょにマヨネーズであえ、それをライスペーパーで包み、パン粉衣をつけて作るのがこの料理。ライスペーパーで包んだものにパン粉の衣をつけるとは、驚きの発想ですね。 実際に食べるとクリームコロッケを少しライトにしたような味わいで、中のクリーミーさが際立ち、ライスペーパーの存在に気が付かない人も多いかもしれません。最初にこの料理を考えた人がライスペーパーを使った理由は、作りやすさを重視してのこと。マヨネーズで和えた具材に直接衣はつけられないので、身近にあったライスペーパーで包んでみたのでしょう。 この料理を支えるマヨネーズですが、日本人が使う酸味の効いたものではなく、味がマイルドで重たい欧米の瓶入りマヨネーズです。サラダなどにかけると味のメリハリがなく、酸味タイプのマヨネーズに慣れている人には物足りなく感じますが、こういった料理に使うと、独特のコクがあるクリーミーな味に仕上がります。ベトナム人が苦手なしつこい重さは、クリームコロッケ程はないけれど、これまでの伝統的な料理にはなかった食感や味わいが受け、人気が出たのでしょう。最近では、「あとは家で揚げるだけ」という半料理済みのネムハイサンもハノイの街で売られています。

mayo欧米のマヨネーズの風味が、この料理にぴったりマッチする

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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