伊藤忍のベトナムめし大全/第73 回 ソクチャン発酵魚スープブン/Bún Nước Lèo Sóc Trăng

ソクチャン発酵魚スープブン Bun Nuoc Leo Soc Trangベトナム式はスープは透き通っていて、クメール式よりも爽やか。ほぐした雷魚の身、焼き豚、たっぷりの野菜がのっている

「ブン/ Bun」と呼ばれる米麺はベトナム全土で一番よく食べられている麺。麺料理以外にも、おかずをのせてごはん替わりにする食べ方もあります。麺料理として食べる場合でも、ベトナム各地に数えきれない程のバリエーションの料理があります。今回は南部メコンデルタの町・ソクチャン(SocTrang)のご当地汁ブン料理のソクチャン発酵魚スープブン「ブンヌックレオ/Bun Nuoc Leo」(Bun = 米麺のブン、Nuoc Leo =ダシ汁)をご紹介しましょう。

この料理はご当地ソクチャンの土地柄をよく反映しています。ベトナム南部メコンデルタの地域は、その昔は現在のカンボジアに住む主要民族のクメール人がたくさん住んでいました。そこにベトナム人が領土を広げて入っていったのですが、現在のカンボジアの方に移り住んだクメール人もいれば、この土地にそのまま住み続けている人々もたくさんいます。そのため、このソクチャンの町にもたくさんのクメール人が住んでいて、さらには華人も多く、ベトナム人との3つの民族が共存しています。それぞれの民族は独自の文化を守りつつ、中でもベトナム人は他の民族の文化も取り入れて新しいものを作って自分たちのものにしています。

この麺料理、元々はクメール人が食べていた汁麺がルーツです。雷魚で取ったダシにベトナム語で「マムボーホック/Mam Bo Hoc」(Mam=魚介を塩漬け、発酵させた食品)、クメール語では「プラーホック」と呼ばれる雷魚を発酵させた調味料を加えて味付けしたもの。この調味料が非常に匂いが強烈なので、ベトナム語で「クーガイブン/Cu Ngai Bun」、タイでは「クラチャイ」と呼ばれる生姜科の植物を入れて香りを付け、これに米麺を入れて食べる料理です。この土地のベトナム人がその昔クメール人からこれを習い、それをベトナム人好みにしたのがこのブンヌックレオなのです。

ベトナム式は、雷魚のダシは同じですが、味付けにはメコンデルタ特産の淡水の魚から作る「マムカーサック/Mam Ca Sac」(Ca Sac=グラミーフィッシュ)を使い、このマムと相性の良いレモングラスで香りを付けます。似てはいますが、それぞれの独特のおいしさがあります。面白いのは、民族だけでなく、この両方のスタイルの料理が同じ町で共存していることですね。

クメール式はマムの香りが強く、それを 打ち消す程の香りの強さの香味野菜の クーガイブンが入っているクメール式はマムの香りが強く、それを打ち消す程の香りの強さの香味野菜のクーガイブンが入っている

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004 年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウエブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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