ベトナムの日本人/佐藤正治さん/複式簿記指導者

869名もの複式簿記学習者を輩出。 「縁を感じるベトナムに今後も貢献していきたい」

Interview_001 「仕事としてだけでなく、他にハノイに行く理由が待っているような、そんな思いがしました」と声を弾ませながら語る佐藤正治さん。ベトナムで複式簿記を普及させるために、大原簿記学校からハノイに2008年に赴任。NPO法人「ベトナム簿記普及推進協議会」の講師として、日本語能力N2レベル以上の人を対象に、ハノイの工業団地や大学で指導。総務など全業務を1人で行っている。 「ハノイに縁を感じたのは、好きな数字の5、6、8という数字が、ベトナムでのラッキーナンバーと同じだったこと。初回の授業から今日までの指導者数は、869名。好きな数字が揃うには少し惜しかったですね…」と一瞬に声を落としかけたが、「どこに出掛けても、教え子と出会うんですよ」と修了生の多さを実感すると、再び笑顔に。 「『中小企業会計原則/Che Do Ke Toan Doanh Nghiep Nho va Vua』という本を読んでいます。ベトナムには複式簿記に関する会計制度はありますが、機能性や用い方が普及されていません。ですから、学生には簿記を勉強することで何ができるようになるのかという全体図を学習者に持たせるよう心掛けています。また、学生の達成感を感じてもらうために、会計の全体図を把握するための基礎となる精算表の作成ができるようになることを目標にしています」。   ベトナムの教科書は文字ばかりで、指導は暗記中心。それに比べ、佐藤さんの授業では説明に絵が多く用いられる。ベトナムの学習法との違いや、外国語での勉強に抵抗を感じ、途中で授業に来なくなる学習者もいるという。 「そのたびに目標を下げて、簡単な授業にしようかと悩みます。でも、自分がハノイに来た意味を考えたら、心を鬼にしています」。   学習者の真剣なまなざしや、「文字だけの会計が立体的なものに感じるようになった」との意見を聞いたときなどが、やりがいを感じる瞬間。 「いつかベトナムの経済史の片隅にでも、我々の団体の取り組みがあって、『複式簿記がベトナムで普及されました』と記載されるような貢献ができたらうれしいですね」。   そんな佐藤さんは、2015年1月で退職。 「帰国後は、日本で病院を利用するベトナム人の医療通訳のようなボランティアをしたいです」。   聞けば、ハノイに来て早々に事故に遭ったという。 「勤務時間後にもかかわらず、献身的に対応してくれた日本人の医療通訳士や、その場に居合わせ助けてくれた女学生の『交通事故に遭うのはとても辛いことだけれど、それに見合うだけの素敵なことが今後起きるので、それを待ちましょうね』との言葉が印象的で…。ハノイに来たのもこういった人たちと出会うためだったのかもしれないと感じました」。   赴任を通じて、今ベトナムにいる理由を今後に繋げようとする佐藤さん。目標に向け、生徒や家庭教師3人からベトナム語学習に励む日々だ。
佐藤正治 さとうしょうじ 1950年、山梨県生まれ。大原簿記学校で公認会計士課の簿記科責任者を長らく担う。2008年7月から、簿記の指導者として赴任。現在は、「NPO法人ベトナム簿記普及推進協議会」ハノイ駐在員事務局を運営。
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