伊藤忍のベトナムめし大全/第65回 手撚り米麺豚皮添え/Bánh Tằm Bì

Vietmeshi201406_01うどんのような「バインタム」ですが、食感は日本のうどんよりもゆるくて柔らかい
今回ご紹介する料理は「バィンタムビー/Banh Tam Bi」という名前なのですが、日本語で何と訳してよいものか非常に悩みました。この料理の主役である麺の様な形の「バインタム/Banh Tam」(Banh=生地物の総称、Tam=蚕)は、文字通り蚕(蚕の幼虫)「コンタム/Com Tam」の形や色に似ているのでこういう名前なのですが、料理名に虫の名前を入れるのは日本人的には少々抵抗がありました。どうしても現物のイメージが頭浮かぶので、リアルに訳したら「食べたい!」という気になる人は少ないかもしれません。そこで、こちらは本来は麺には分類されていませんが、生地を手で撚って麺状に形作るので、この様な日本語訳にしてみたのでした。 バインタムはすり潰した米に少量のタピオカでんぷんに湯を加えて練り、生地を作ります。少量ずつ手に取り、手の平で撚って短い麺の様な形状にします。茹でたら冷水に取り、水気を切れば出来上がり。その後、「ビー/Bi」(Bi=皮、ここでは豚の皮」を添えると、今回のテーマの「バインタムビー/Banh Tam Bi」となります。主に朝食などに食べられ、ベトナム南西部の名物料理で、特にメコンデルタの町「バックリィウ/Bac Lieu」のこれは有名です。 料理に沿える豚の皮のビーは厳密に言うと、豚皮だけを添えるのではなく、茹でた豚皮と豚肉を細切りにして炒り米粉の「ティン/Thinh」で和えたものを差します。豚皮の独特の食感と炒り米粉の香ばしさが楽しめます。バインタムビー以外に、ごはんと混ぜて食べたり、野菜と一緒にライスペーパーで巻いて食べたりと非常にポピュラーです。 バインタムにビーを添え、カットしたきゅうりやレタス、もやし、大根とにんじんのなますなどを添えて、魚醤ヌックマムベースの甘酸っぱいタレとココナッツミルクのソースをかけて食べます。見た目も鮮やかで形状も面白い料理です。バインタムの優しい口当たりと、ビーの炒り米の香ばしさ、様々な野菜の香りと食感が合わさり、鼻と口の中が楽しくなります。ヌックマムの甘酸っぱさ、塩気で引き締まりつつも、ココナッツミルクのコクでゆるんで…と、様々な要素が一度に混ざり合う料理ですね。 それにしてもこれを自力で作ると様々なパーツの下ごしらえが本当に大変です。現地だと屋台などで気軽に朝食に食べたりするのですから、何とも贅沢だなと思ってしまいます。
Vietmeshi201406_00バインタムは裁断や押し出して作る麺と違い、両端が細くなっている
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウエブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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