伊藤忍のベトナムめし大全/第63回 イカのすり身揚げ/ Chả Mực

1レストランなどでは、いかのすり身生地に豚の脂身を加えるなどして、口に入れた時にジューシーになる様に仕上げることも ベトナムの料理には「チャー/Cha」という名前の付く料理が数多くあります。このチャーとは、肉や魚介、野菜など最初は塊であったものを小さく切ったり、すりつぶしたりして細かくし、調味料や香味野菜と混ぜてから形作り、焼く、揚げる、蒸す、ゆでるなど加熱調理をして固めて、最終的には塊に仕上げた料理の総称です。練り物、団子、すり身揚げ…などベースの素材と加熱調理の方法によってチャーの日本語訳も変わるのでひと言では言えないのですが、その様な感じの料理を指す言葉です。   さて、今回ご紹介するのは「チャームック/Cha Muc」と呼ばれる料理です。Chaは前述の通りで、Mucはイカ。イカをすりつぶして小判型にまとめ、油で揚げた料理なので、日本語訳は「イカのすり身揚げ」としておきましょう。こちらのチャームックは、ベトナム北部でよく食べられています。特にハロン(Ha Long)湾や、ハイフォン(Hai Phong)などの北部の港町では甲イカがたくさんとれ、この料理が名物となっています。   2つの島からなるハロン湾、庶民が住む側のホンガイ(Hon Gai)の市場へ行くと、このチャームックを売る専門店が何軒も並んでいます。こちらのはイカのすり身に玉ねぎが入ったシンプルなもの。揚げたチャームックが山ほど積んであるので、買いたい個数を伝えて二度揚げしてもらいます。買いたてを食べると火傷するほど熱いですが、熱いうちの方が香ばしさや中の玉ねぎの甘さが口の中に広がります。さらには、ハロン湾、ハイフォンで街の定食屋やレストランへ行けば、このチャームックに出会える確立は高いでしょう。   一方、ハノイの食堂やレストランなどでもチャームックを置くところが多くあります。ホーチミン市などの南部でも、一部のレストランが北部の名物料理としてメニューに加えていたりします。レストランなどでは少し手を加えて、細かく刻んだハーブのディル「ティア ラー/Thia La」(南部ではティーラー/Thi La)が加えてあることが多く、イカの香ばしさと旨味、ディルの爽やかな香りのマッチングが最高です。このディルは魚介類と相性がよく、ベトナム北部では日常よく食べるハーブです。   私は特にディル入りのチャームックの大ファンです。南部にはディルの香りが苦手な人も多く、南部の名物だったらこの組み合わせは生まれなかったはず。かつてベトナム南部に在住していた私ですが、こういう料理があるので、ベトナムの南、北、中部のどこの料理が好きって全く絞れないのですよね。
IMG_0741ベトナムの市場では、肉厚の甲イカが最もよく出回っている
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 http://www.vietnamfoodnet.com
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