29屋的越南恋愛コラム/それでもアナタは、パートナーに/「日本を捨てろ」と言えるのか?/第28回

帰る家があり、迎えてくれる人がいる者は、幸せである。仕事も生活もストレスだらけのベトナム暮らしにおいて、「ただいま」を言う相手がいることは、己を失わないための安らぎ、自堕落に流されないための錨(いかり)とも成り得るからだ。 共働きや育児などの諸事情から、単身赴任も珍しくはないベトナムの日本人ビジネスマン事情。既婚・新婚・未婚を問わず、パートナーと離れ離れになるのがイヤなのは当然の感情ではあるが、だからといって「全てを放り出して、俺についてこい!」と、簡単に言って良いものだろうか? 相手にも日本での仕事や人間関係がある。それを全部、放り投げさせてまで、即刻見知らぬ異国での新生活に飛び込ませるのであれば、それなりの「準備」と「賭け」が必要ではないか? 金銭は独立の基本。 これを卑しむべからず 「愛はお金で買えないが、お金があれば愛は潤う」と、言った金持ちがいた。ここベトナムで、日本人が暮らしていくに当たり、「お金がある」ということが、その身を護り、暮らしを快適にするものであることは、残念ながら真実だと、ボクは思う。 在住日本人の立場にも「ピン」と「キリ」があり、会社が日本人レベルの生活を保障してくれる立場の人もいれば、そうでない人だって、もちろんいる。 アナタ1人が暮らすのであれば、別に、毎日、安いローカルストリートフードを食べていればいいし、どんなところにだって住めるだろう。日本人の友人がいなくたって、親切で明るいベトナムの隣人たちがいれば、お金がなくとも楽しくやれるかもしれない。 しかし、日本から、アナタについてやってきた、アナタのパートナーは、その環境を本当に楽しめるのだろうか? そして逆に、お金があればあったで、狭いコミュニティの中、日本にいるとき以上に日本人的な他人との交わりに適応できるかどうか。 やってみて、「ダメだった」ときには、2人の関係がボロボロに傷ついて修復不可能になっていることのほうが多いのである。 "WE'LL ALWAYS HAVE PARIS." 名作映画『カサブランカ』の終盤、昔の恋人である自分をとるか、今の夫とともにアメリカに亡命するかを迷う女に、主人公リックは寂しさを抑えて微笑みつつ云う。 「俺たちには、いつだって(共に過ごした)パリの思い出があるさ」。   無理を通して生活を共にした挙句、2人ともが傷つく可能性があるのであれば、お互いを想いながら遠く離れていたほうが、はるかにマシではないのか? 会えない時間に、自分がどれだけ、大きくなれるか。ガッツで戦え、寂しさと!
29屋(にくや) 食材&弁当屋の店主。本業の傍ら、かつては「29屋に訊け!」など本誌人気コラムを担当。本コーナーでは、ベトナム恋愛模様をちょっぴり辛口、ときどき優しく(!?)、生あたたかい目で考察する。

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