伊藤忍のベトナムめし大全/第61回 ゆで野菜/Rau Luộc

RauLuoc_0004撮影/大池直人

ヌックマムやベトナムの大豆醤油にゆで卵を合わせるタレは、北部ではゆでキャベツに合わせる。調味料にゆで卵を合わせると、驚くほど後を引く味に

「ベトナム料理は生野菜やハーブをたくさん使いますね」という声を日本ではよく聞きます。しかし、実際にベトナム人がよく食べるのは生野菜ばかりではありません。炒めたり、スープに入れたりもしますが、単純に野菜をゆでた「ザウ(南部では、ラウ)ルォック/Rau Luoc」(Rau=野菜、Luoc=ゆでる)が主流です。   このゆで野菜は、ベトナム人が毎日食べる白いご飯のおかずなので、日本のベトナム料理店などではお目にかかることはあまりありません。ベトナムの家庭や食堂、場所によってはレストランにもあるなど、かなりポピュラーなメニューです。北部では生野菜よりもよく食べるかも知れません。   野菜をゆでた後、日本ではダシ醤油を合わせておひたしにするほか、マヨネーズや塩など何か調味料をかけますが、ベトナムでは調味料はかけず、調味料そのものや、複数の調味料、香味野菜を合わせてタレにして付けて食べます。どんなゆで野菜にも合わせるのが、ベトナムを代表する調味料の魚醤「ヌックマム/Nuoc Mam」とベトナムの大豆醤油「シーザウ/Xi Dau(南部はヌックトゥーン/Nuoc Tuong)」です。この2つの調味料にゆで卵を丸ごと入れるだけで別のタレになります。   食べる時は、卵をグチャグチャにつぶして調味料と混ぜ、それに野菜を付けます。ゆでた空芯菜や根菜には味噌ダレを合わせることもしばしば。北部ではバン(Ban)村の味噌「Tuong Ban/トゥーンバン」はとても有名。さらに北部で隼人瓜や隼人瓜のつる、筍などに合わせるのはピーナッツごま塩の「ムォイヴン/Muoi Vung」(Muoi=塩、Vung=ごま)があり、南部などでは、白や赤い腐乳に砂糖を加え、ゆでたオクラに付けて食べる「ダウバップルォックチャムチャオ/Dau Bap Luoc Cham Chao」(Dau Bap=オクラ、Chao=腐乳)が人気です。中部ではヌックマムで発酵したイワシ(Mam Ca)をつぶしたタレに、ゆでたさつま芋のつるなどを付けて食べる「ラウホアイランチャムマムネム/Rau Khoai Lan Cham Mam Nem」(Rau Khoai Lan=さつま芋のつる、Mam Nem=発酵したイワシから作ったタレ)などがあり、これら以外にもまだたくさん存在します。   さらにゆでた野菜は、日本だと色止めをするために水に取って一度冷ましますが、ベトナムでは白いご飯に合わせやすい様にゆでたての熱々が食卓に並びます。料理と呼んでしまってよいかどうか迷うほど簡実なゆで野菜は、とてもバリエーション豊かでこだわりがあるものだったのです。
RauLuoc_0019「ゆでた隼人瓜とピーナッツごま塩/Su Su Luoc Cham Muoi Vung」
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 http://www.vietnamfoodnet.com
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