男のローカルひとり飯／第27回 蟹食うわ

蟹を食べると言っても、蟹そのものはこの地でも高い。予算内でいただけるのは、蟹ダシのスープで食べるハイフォン名物の麺料理「バンダークア／Banh Da Cua」だ。 　 運ばれて来た蟹麺の丼は、たっぷり空心菜の入った何とも田舎風の見た目。まずは、蟹の旨味が溶け出した透明度のあるスープを楽しみながら麺と対面。薄目のタリアテッレのような茶褐色の平打ち麺だ。麺をすすると、薄いビラビラが舌の上で踊りながら、じきに舌に張り付き、同時に持ち上がったスープも舌に運ばれてくる。麺が薄いためさくっと歯が通るが、乾麺なだけあって弾力はあり、日本人好みの食感。 　 柔らかめに茹でられた空芯菜は、葉がやんわり歯にからみつき、茎には若干の歯ごたえが残っている。また、水オジギソウ（Rau Nhut）の茎が、さらに固めで、麺や空心菜と歯ごたえのグラデーションが出来上がっている上、独特の苦味と渋味も面白い。蟹のつみれや旨味の強い魚のすり身もスープや野菜とよくマッチしている。 　 スープにライムをぐるりとかけると、なぜか柑橘の香り以外に香草の香りが立ち上ぼり始め、スープの複雑さを感じる。ちなみにマムトムは入れすぎるとスッキリしたスープを破壊してしまうので注意。こくが足りないと感じたらヌックマム（Nuoc Mam）がオススメ。 　 そして、「このスープがもう少し甘かったらいいのに…」などと思っている自分は、完全にホーチミン市の人間になったんだなーと、なんだか深く納得したひとり飯だった。

本日のひとり飯： バインダークアバックボン Banh Da Cua Bac Bong 住所: 12A Hat Giang St., Ward 2, Tan Binh Dist., HCMC 電話：(08) 3842 1534 営業時間: 7:00～18:00 (L.O.17:30) バインダークア／Banh Da Cua」３万5000VND（約170円)

井之原 四郎 孤高のフーディーを自称するフードライター。食べ物である限り、食べられない物がないのが自慢。美味い料理を食べているときは自分だけの世界に入り込んでしまい、時には涙を流すことも。酒にも目がない。