ベトナムの日本人/齋藤魁さん/人形作家

理論的に伝え、自由にアイデアをいっぱい出してもらう 挑戦心が強いベトナム人の伸びしろに賭けたい

Mtsui-2-r 「街で気軽にオーダーメイドができるベトナムは、すごくぜい沢な国」と話すのは、人形作家の齋藤魁さん。 「飛び込みで行っても対応してもらえる。しかも2、3日後には完成。人形を持ち込んで店先で採寸、デザイン、そして縫ってもらえる国は世界中探しても、なかなかないんじゃないですかね」。   現在、齋藤さんはベトナム人のスタッフと一緒に現地法人を立ち上げ、株式会社扇インダストリーの製作する着せ替え人形「サイクロイド・ドール」の衣装をホーチミン市で制作している。 「ファッションドールの魅力は、着せ替えを楽しめること。近年、そのレベルはどんどん上がり、実際の女性が着ている服に負けないようなオリジナリティのあるファッションが生まれています」。   アジアでの洋服作りは、一般的にコストを抑えるためというイメージがある。 「大量生産を目指すなら、ほかのアジア諸国のほうがいいかもしれません。でも、ベトナムの子たちは、パターンやソーイングも含めた技術に裏付けられた、トータルのデザインができる」。   その理由を齋藤さんはこう分析する。 「職種がまだ細分化されていないからでしょうね。昔ながらの職人といいますか、一人でデザイン、パターン、ソーイングの何役もこなせる。センスの点についても、今はインターネットも普及し、世界のリアルタイムのファッション情報も入りますから」。   彼女たちに自由に衣装を作らせると、時々ユニークなものが出来るそうだ。 「日本の学生はそつなく、70点くらいのデザインができます。一方、ベトナムの場合は、全然ダメなときもあれば、80点を超えるデザインが上がったりする。真似を嫌がり、個性を強く打ち出しますね。ただ、個性的すぎることも(笑)」。   齋藤さんがスタッフへの伝達で大切にしているのは、「理論的に伝えること」だ。 「暑い国で育ったデザイナーたちは、冬物については手探り。また重ね着する文化がないせいか、トータルコーデが苦手。そこで、ディテイルの作りや、全体の配色など、ファッションにどんな法則があるのか、世界中の資料を見せながら理屈で伝える。マップを作り、良い見本も悪い見本もみせて、自分たちの頭で理解してもらうのがポイントですね」。   仕事のやりとりはフェイスブック上で行なっている。アイデアをタイムラインにあげてもらい、他のスタッフと共有し、意見を書き込んでもらっている。 「テーマを与えると、次々とデザイン画が上がってくる。それを皆で採点してゆきながら、コレクションの方向性を決めていく。オッケーが出たアイデアはすぐに試作に取り掛かる。このレスポンスの早さが魅力ですね」。   まだまだ手探りだが、勢いあるベトナムの若者の「伸びしろに賭けたい」と、力強く答えた。 「この国の縫製文化のスピード感は刺激的。彼らには挑戦心もあるし、いずれユニークなものが生まれることと思います」。
齋藤 魁 さいとう かい 静岡県出身。(株)扇インダストリー代表取締役。 現地法人OUGI SAIGON役員。4年前からベトナムと日本を行き来している。 ウエブサイト:http://ougi-industry.com        http://dolly-garage.com Twitter ID : CYCLOIDinfo
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