伊藤忍のベトナムめし大全/第59回 ヌックマムの後引き煮/Nước Mắm Kho Quẹt

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干し海老入り後引き煮の「トムコーコークエッ」は土鍋の中で作られ、グツグツと煮立っている状態で出て来る。砂糖でトロミの付いたヌックマムが食欲を刺激

「これさえあればごはんが何杯も食べられる!」。米を主食とする国には、そんなおかずがいくつかあるはずです。日本では梅干し、おかか…などがそれに当たるのでしょうか? 今回ご紹介するのは、そんなごはんのお供のベトナム版。ベトナムの基本調味料であり、どの家にも必ずある魚醤のヌックマム(Nuoc Mam)で作る「ヌックマムコークエッ」です。 料理と呼んで良いのかどうか迷うほどに、作り方は簡単。ベトナム料理に欠かせない小さい赤い玉ねぎか青ねぎの下の白い部分を刻んで油で炒め、ヌックマムと砂糖、こしょうを加えて煮詰めるだけ。香りが良い甘じょっぱい味は誰もが大好きな味で、ごはんにピッタリ。 ちなみにこの料理の名前のヌックマムは魚醤、コー(Kho)は煮る、そしてクエッ(Quet)はこするという意味があります。どうしてこんな名前かと言えば、この料理を食べる時に箸を器の底にこすりつけて食べるからだそうです。箸でつかむ具材がなく、箸をこの料理の中でこすりつけて、その味の付いた箸でごはんを食べるからとか、美味しいので箸を何度もこすりつけて口に運んでしまうからなどの諸説があります。とにかく箸を「こする」の意味の様です。 お行儀が悪い感じですが、それを通り越して美味しさの方に走ってしまう…的な意味もあるのかなという印象を受けました。日本語でどう訳せばよいのか、あれこれと考えた結果、何となく名前の由来のイメージも伝わる「後引き煮」としたのでした。  さて、こちらの料理はお金がかからない安いもので、「貧乏メニュー」的なイメージが強いのです。誰もが好きな味ではあるけれど、料理としてお店などではお金を取りにくい。そこで、アレンジバージョンが誕生。 「トムコーコークエッ/Tom Kho Kho Quet」(Tom Kho=干し海老)は白い土鍋(素焼きの壷)で炊くごはんの「コム二ウ/Com Nieu」の店などの定番メニューです。ヌックマムコークエットに、刻んだ豚の脂身と干し海老、唐辛子を加えて作ったもの。豚の脂身のコク、干し海老の旨味が加わって、少しおかず感が増します。また、このコークエットの味で小魚を煮た「カーコークエッ/Ca Kho Quet」(Ca=魚)などもあります。 この料理をベトナム人に教わった時、「こんな究極のベトナム料理を作りたいなんて、忍はもうベトナム人ね」と嬉しそうに言われたのを覚えています。確かに日本で外国人が「おかか」の作り方教えてと言われたら、私も同じ気分になることでしょう。 NuocMamKhoQuet_0027

家庭料理の店などでは、ごはんのお供として出しにくい「ヌックマムコークエッ」を、ゆで野菜のタレとして出していることも多い

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウエブサイト:http://www.vietnamfoodnet.com
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