ベトナムの日本人/中川秀彦さん/越日専門学校創立者

伝え方次第で授業に対する姿勢は変わる チャンスはみんな平等にあることをしっかり伝えたい

Nakagawa_0011 「頑張ればどうにかなる。それを知ってほしい」。 ホーチミン市中心地から車で約1時間かかるロンアン(LongAn)省にある、職業に関する知識と技能を持った人材の育成学校「越日専門学校」。創立者の中川秀彦さんは8年前、書籍出版をきっかけにベトナムとかかわるようになった。 数々のベトナム人経営者に取材する中で、タイル専門会社の社長から「日本式の教育が受けられる学校をロンアン省に作りたい」という夢を聞き、一緒に学校を作ることに。とはいえ、設立はそう簡単ではなかった。 「外国人が学校を作ることは、とくにロンアン省の政府は不安だったようですね。簡単にはライセンスが下りませんでした。しかし、じっくり取り組み、約5年という年月をかけて実現。この国は願えば叶う国なんだと確信しました」。 学校ではIT、建築、経理、金融の4つの学科があり、生徒は2年間をかけて、専門知識を得られるカリキュラムが組まれている。 生徒たちの平均年齢は18歳。農業が盛んな同省では、生徒の多くが昨日まで農作業に出ていたような子ばかり。少し時間にルーズで、授業開始から5分遅刻する男子生徒がいた。「遅れるな」と注意しても直らなかったため、ある方法で忠告。「彼の財布を奪う」という手段を取ったのだ。 「机の上に財布を置いてもらい、その瞬間に取りあげました。当然、彼は怒りましたが、『あなたがしていることは、今私がやったことと同じ。授業開始を待たされたみなさんは学費を払っているのに、5分の遅刻が毎日続くことで1年間で数時間分の授業料を奪っていることになる』と話しました」。 彼は翌日から遅刻しなくなったそうだ。伝え方1つで授業に対する姿勢ががらりと変わった。 先生という立場だが、彼らから学ぶこともある。 中川さんたちは、「5S」をはじめ、日本の企業文化などを授業で教えている。日本人の仕事に対する考え方を伝えるために、NHKの『プロジェクトX挑戦者たち~黒四ダム断崖絶壁の難工事~』を見せ、学生たちから感想をもらった時のこと。「命を懸けて仕事や使命を果たすことは素晴らしい。だからこそ、日本は世界で信用されるのだ」というのが模範解答なのだが、彼らの答えは、今までの中川さんの考えを覆すものだった。 「戦争以外で命を懸ける必要はない」、「寒い中、仕事をする意味がわからない」。 その意見を聞いた瞬間、「約束を守ることは大切。だが、自分を犠牲にしてまで仕事をすることは正しくないのかもしれない。もしかして、私たち日本人の考えは間違っていたのかなと思いました」。 学生の道具ともいえる筆箱さえ、ロンアン省の子たちは持っていない。 「それでも、努力は報われることを知ってほしい。私たち教師も知りうる知識を彼らに伝えていきたい。チャンスは平等にあることを理解して、強い意志をもってもらいたいですね」。
中川秀彦 なかがわひでひこ 『グッドモーニングベトナム株』(牧歌舎)、『ラオス成長企業』(カナリア書房)などを執筆。現在、日越投資家コンサルタント株式会社(www.nhattinhviet.com)でベトナム国内の調査やアテンド、視察同行のサポートを行う一方で、2011年11月に越日専門学校(www.truongvietnhat.edu.vn)を設立。
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