伊藤忍のベトナムめし大全/第51回 クアンナム地方風汁あえ麺/Mì Quảng

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伊藤忍のベトナムめし大全

今回ご紹介するミークアン(Mi Quang/Mi=麺、 Quang=クアンナム省)は、ベトナム中部のダナン(Da Nang)やホイアン(Hoi An)が属するクアンナム(Quang Nam)省の麺料理です。 しかし、以前私が住んでいた南部のホーチミン市でもたくさんの店があって気軽に食べられるので、私の中ではかなり日常的な料理でした。豚肉や海老を甘辛く煮た汁を黄色い幅広の米麺にかけて、汁とあえて食べるもの。私が以前ダナンを旅行した際、ガイドブックに出ている有名店に行ったのですが、ホーチミン市のものとそれほど変わらなかった記憶があり、こういうものだと思っていました。 ところが、ある日ダナンの知り合いの家を訪ね、そこでミークアンを教えてもらえることになりました。話を聞いてみると、「ミークアンは店ではなくて、家で食べるものだよ」と言うではありませんか…。 他の地域の麺料理、例えば北部のフォー(Pho)や、南部のフーティウ(Hu Tieu)などは店で食べるのが普通で、家ではあまり作らないのですが、ミークアンは家で作るものなのだとか。 そこで、まずは麺を入手しに市場へ。ところが、「白い?」。そう、ホーチミン市では黄色い麺、ダナンでもガイドブックに載っている店は麺が黄色かったので、「ミ―クアン=黄色い麺」と思い込んでいました。しかし市場では白い麺しかありません。「黄色?それは商売用に着色している麺。普通は白だよ。」と麺屋さん。あれっ…。この時点から認識が違っていました。 そして2日間にわたりミークアンを作ってもらいました。1日目は豚肉とトマト、パイナップル少々を入れて、魚醤ヌックマム(Nuoc Mam)で煮た汁。翌日は海老と豚をヌックマムで甘じょっぱく煮た煮汁を麺にかけました。これにピーナッツをトッピングし、たっぷりの野菜と焼いたごま入りライスペーパーをいっしょにあえて食べるのです。 スープは2日とも少し違いましたが、どちらもすごく美味しくて、お代りしたのを覚えています。結局ミークアンとは、その時に家にあるものや、入手できたもので作る料理なので、ベースは豚だけでなく、鶏、牛、魚、海老など様々。家の数だけ味があるとも言われているのだそうです。 店で食べているだけでは背景までつかむ事ができず、現地の人がどうやって食べているかまでを把握しないと、その料理を知った事にはならない。ミークアンは、かつての私にそう思わせてくれた料理なのです。 C16ミ―クアンの麺はフォーの様にすりつぶした米生地を蒸して作るが、フォーよりも生地が厚く、日本のそばやうどんのように包丁で切り出す。
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約4年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36 通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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