男のローカルひとり飯／第16 回 フォーリンラブ

ハノイに行く機会もある。当然目的は美味いローカルフード探し、ではなく仕事だが、店選びについて決して妥協を許さないのが通というものだ。

こちらのフォー、一口スープを啜（すす）ると、思わずおおお、と感嘆のため息が出てしまう。まず感じるのが、牛脂を焦がしたようなスモーキーな香ばしさ。細切れ牛肉をフライパンで加熱しているがゆえの味わいと思われる。うま味調味料を使っていないスープならではの柔らかで優しい旨味が、異常なまでに濃縮されている。調理場で見かけた大量の牛骨入りの寸胴鍋が頭をかすめ、深く納得。凄い店に出会ってしまったぞ、と姿勢を正し、再び食べ始める。

香草は、初めから入っているスタイル。数センチに切られた大ぶりな小口ネギに、細かく刻まれたパクチー。スープを舌全体で感じながら、若干火が入ったネギをギュッと咬みこむ瞬間がたまらない。香草をフォーの麺に散らした上に熱いスープをかけるという、味わいを計算し尽くした作業に再び脱帽。

料理とは、食べ進めるうちに当初の味わいや香りの印象が弱まっていくのが常。ところがこのスープは一口毎にあの香ばしさが蘇ってくる。スープを啜る度に香ばしい！美味い！香ばしい、美味い！と脳内確変連チャン状態。

一応、ライムやチリソースもスプーンにすくったスープに1 滴ずつ入れて試して見たが、この完結したスープには蛇足だ。そのまま食べ進み、確変状態が途切れることなく完食。完全にやられた。この一杯に再び出会うためにハノイを訪れても良い、そこまで思えた一品だ。

本日のひとり飯： フォーティン／ Pho Thin 住所：13 Lo Duc St., Hai Ba Trung Dist.,Hanoi 電話：(04) 3821 2709 営業時間：5:00 ～ 21:00 「フォーターイラン／ Pho Thai Lan」４万5000VND（約180 円）

井之原 四郎 孤高のフーディーを自称するフードライター。食べ物である限り、食べられない物がないのが自慢。美味い料理を食べているときは自分だけの世界に入り込んでしまい、時には涙を流すことも。酒にも目がない。