No.016 終わらない定点観測／Fukui Takaya

2010

2003年、初めてこの建物に向けてシャッターを切った時のことは何も覚えていない。なぜなら、サイゴンによくある古い建物の１つに過ぎなかったからだ。ところが、その何気ない１枚が、経済成長著しく変化の早いこの街では､貴重な記録になってゆく。 数年後に工事が始まったとき、とうとうつぶされるのかと思いきや、古い建物はそのままで、その後ろに近代的な建物を建てるという。なりふり構わぬ再開発ばかりのベトナムにしては、洒落たことをするじゃないかと思い、以来、工事の進捗状況をカメラに納めるようになった。 2008年にほぼ完成した姿を納め、これで定点観測は終わったつもりだった。ところが数年後、背後にさらに大きなビルが建ち始めているではないか。横位置できれいに収まっていたこのシリーズだったが、仕方なくカメラを縦位置に持ち替え、再び記録を開始した。

2003

2005

2008

写真・文／福井隆也 1963年生まれ。ベトナムとの出会いは1993年。被写体としてのベトナムに惹かれ、人、風景、生活、食を撮り続ける。2003年から3年間サイゴンに在住。著書に『ベトナム・センチメンタル』（情報センター出版局)など。

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