伊藤忍のベトナムめし大全/第34回 レモングラス唐辛子/塩風味の揚げ豆腐/Đậu Hũ Chiên Muối Sả Ớt

レモングラス唐辛子・塩風味の揚げ豆腐 日本人には、おかかをのせた厚揚げを連想させるビジュアル。だが、まったく違ってエキゾチックな味

伊藤忍のベトめし大全初めてこの料理の存在を知った時、「こんな組み合わせあり?」と、とても驚いた覚えがあります。その料理は「ダウ フー チン ムオイ サー オッ/Dau Hu Chien Muoi Sa Ot」(Dau Hu=南部での豆腐、Chien=油で揚げたり焼いたりすること、Muoi=塩、Sa=レモングラス、Ot=唐辛子)。香ばしく揚げた豆腐に、唐辛子の辛味と塩味を付けカリカリに揚げたみじん切りのレモングラスをのせた料理です。 今でこそ、私の料理教室で「とても相性の良い組み合わせです」と紹介していますが、当時の私には、豆腐とレモングラスの組み合わせは、全く想像もつかない意外なものでした。爽やかながらしっかりと主張のあるレモングラスの香りは、どこか南国をイメージする非日常的な素材。対して日本で子どもの頃から親しんできた豆腐は、日常的で地味。そんな2つの食材が合わさったらどんな味になるのかしらと、興味深々で初めて口にしたのを覚えています。ところが表面はカリッ、中はソフトな揚げ豆腐に、カリカリのレモングラスをたっぷりまぶして食べると、とても面白い食感。爽やかなレモングラスの味と香りに、ピリッと唐辛子の辛味と塩気が効き、平坦な味の揚げ豆腐が賑やかで立体的な味になり、当時の私にとって、とても新しく感じた豆腐の食べ方でした。 この料理、南部の食堂や家庭料理を出すレストランでは定番のメニューです。ただし、そういうところで見かけるものは、豆腐とレモングラスを別々に揚げ、揚げ豆腐にカリカリのレモングラスをのせて盛り付けるという工程で作られることが多いようです。 でも本来はもっと大胆な作り方をします。市場の飲食店や町の定食屋など、大量にこれを作る店では、豆腐とレモングラスをいっしょに油の中に入れて揚げるのです。まず、揚げる前の豆腐の表面にいくつか包丁で斜めに切りこみを入れます。そして刻んだ赤唐辛子と塩を混ぜたみじん切りの生のレモングラスをたっぷり詰め、油で揚げるのです。詰めたレモングラスの半量ぐらいは、油の中で泳いで鍋底に沈みますが、そんなことは気にせずにそのまま揚げ続けます。豆腐がカリッとしたら引き出して器に盛り、鍋底に沈んだレモングラスを網じゃくしなどですくって、豆腐にどっさりとのせれば出来上がり。 「なるほど! とても合理的な方法!」と納得しましたが、これはレモングラスが安いベトナムだからできる技。レモングラスが安くはない日本で同じ作り方をしたら…、相当な高級料理になってしまいますね。

豆腐 ベトナムの豆腐は水気が少なく、しっかり固め。水切りなしでも油に入れれば、カリッと揚がる

伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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