2011.07.31
• 伊藤忍のベトナムめし大全 •伊藤忍のベトナムめし大全/第30回 揚げ豆腐のブンマムトムダレ/Bún Đậu Mắm Tôm
[caption id="attachment_1916" align="alignright" width="242" caption="水分が少ないベトナムの豆腐は揚げると日本の厚揚げの様な重みはなく、軽い食感"]
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ベトナムの豆腐は、日本のニガリで作る豆腐よりも水分が少なく、しっかりとしまっていて固め。そのため、水切りをしなくても、油の中に入れるだけで簡単に揚げ豆腐が作れるので、ベトナムには揚げた豆腐を使う料理がいろいろあります。
今回ご紹介するのは、ハノイなどの北部で食べられている、揚げ豆腐と麺をいっしょに食べる料理「ブンダウマムトム/Bun Dau Mam Tom」(Bun=米麺、Dau=ダウフー/Dau Phuの略で豆腐、Mam Tom=マムトム)。揚げたての豆腐を、素麺のような米麺のブンや香草といっしょに、海老を発酵させた調味料マムトムに砂糖やレモン汁を加えて作ったタレにつけて食べます。
ベトナムの伝統的な豆腐はニガリではなく、大豆にも含まれる水に溶けると酸化する成分で固めて作ります。この酸を豆乳に加えると、たんぱく質が固まって水分と分離します。ちょうど牛乳に酸を加えてカッテージチーズを作るような感じです。固まったたんぱく質を枠に入れ、重しをし、形を整えて成型すると豆腐が完成します。その豆腐を油で揚げて、揚げたてを味わうのがこの料理なのです。
この揚げ豆腐を味わうのに合わせるのが米麺の「ブン/Bun」。他の汁麺や和え麺に使うブンと同じものなのですが、ツルツルと通常の麺のように食べるわけではありません。面白いことに、ブンダウマムトム用のブンは、麺を作る工程で、ゆで上がったものを、小さなかたまりにまとめ、空気にさらして水分を飛ばします。これを食べやすい大きさにハサミで切って食べるのです。麺を食べると言うよりは、米からできた柔らかい生地を食べるという感じでしょうか?
[caption id="attachment_1918" align="alignright" width="242" caption="豆腐を揚げている店の前を通ると、香ばしい香りに誘われてしまう"]
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さらにもうひとつ重要な材料が「マムトム/Mam Tom」(Mam=魚介を発酵させた食品、Tom=海老)です。これは、特にハノイなどの北部で親しまれている、海老を塩漬けにし、発酵させて作る調味料です。イカの塩辛を強烈にしたような独特の香りがするのですが、旨味がとても濃いのです。このマムトムに砂糖やレモン汁などを加えたタレの旨味と塩気で、ブンや豆腐を味わうというわけです。さらに、香り豊かな数種類の香草も合わせます。そのため、揚げた豆腐も香草の香りで、サッパリと食べられるのです。
ブンダウマムトムは、朝ごはんに食べることが多い料理です。店や道端の天秤屋台などの前では、朝からジュワジュワと豆腐を揚げています。朝から揚げたての豆腐を食べるなんて、何とも贅沢ですね。


伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2010年12月に新作レシピ本『はじめてのベトナム料理』(柴田書店)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
