<北部民族歌謡大全>
カーチュー (Ca Tru)
高度なテクニックを要することから、カーチューを演奏できる演奏家は限られているという。これからは、人材育成も課題のひとつ
心に響く
悠久の調べ
どこか切ない音色の弦楽器ダンダイ(Dan Day)、歌い手が歌いながら演奏する高音の打楽器ファック(Phach)、体の芯まで響いてくる太鼓チョンチャウ(Trong Chau)。これら3種の楽器から紡ぎだされる節に、歌い手がゆったりと詩をのせていくカーチューは、情感たっぷりのベトナム版雅楽だ。
その歴史は未だ謎に包まれているが、15世紀の碑文によると、11世紀頃に発祥したとされている。また、ベトナム語の古語や漢詩で歌われることが多く、学者など知識人の間で愛されたという。その後、庶民にも広まり、村の祭りや結婚式、長寿を祝う席などで盛んに歌われたカーチュー。ところが20世紀に入り、一時その人気は衰退していくこととなる。
実は「カーチュー」というのは「歌札」という意味。歌の上手な人は特別な札(ふだ)をもらえ、その札をお金に変えられるという習慣があったためだ。また、当時カークワン(歌館/Ca Quan)という上演施設があり、そこには演奏者以外に客とお酒を共にする女性もいたことから、悪いイメージを持たれてしまった。
しかし1970年代後半から、ベトナムで伝統文化保存の機運が高まり、芸術として復活を果たす。さらに2007年度中にも世界遺産としての申請も行う予定だというから、その芸術性の高さは折り紙つきだ。 |