カンボジア食文化入門 クメールの食卓
第2章:見学/クメール人の食生活

シェムリアップの庶民の食生活。彼らはどんな家に住み、食材を扱い、どのように料理し、食すのか。そこに、日本との大きな違いはあるのだろうか。そんな疑問を解くために、シェムリアップ郊外に住むキエン(Kheann)さん一家の生活を覗いてみよう。
写真)キエンさんの母親が住むのがこの家。藁葺きの家の中にも台所がある。火の始末を忘れて、2度ほど火事で全焼したことがあるとか
ゆったりした自然の営みと
素朴で豊かな食生活
キエンさんの実家は、アンコールワット近くの小さな村にあった。辺り一面には緑の穂の生い茂る水田が広がり、そこに高床式の民家が点在している。キエンさんは7人兄弟の大家族。それぞれ子供が2〜3人おり、皆この近所に住んでいる。週末には食事を一緒にするために、家族が集まってくるという。
「食事の世話は女性の仕事なの」とキエンさんのお姉さん。その言葉通り買い物から料理、後片付けまで全て女性が担当する。市場に向かうと、食料品を売るのも全て女性だ。食事をしている人たちが、笑顔で手招きしてくれる。
市場から家に帰ると、すぐに食事の支度が始まった。かまどに火をおこし、甕の水を汲んで野菜を洗い、庭から果物を摂り、木に登って椰子の実を落とす。なんだかタイムスリップしたような、そんな台所の様子。たった1つのかまどで、ご飯を炊き、野菜をいため、スープを作っていく。
警察官のお兄さんが帰ってきて、12時丁度に食事が始まった。子供たちが、外の台所から2階に料理を運び、床に並べる。みんなが座ると、女性たちがそれぞれの皿にご飯をよそっていく。自宅で精米したコメは、少し赤みがかっているのがわかる。腕を伸ばして自分のスプーンで直接ボールからスープをすくい、ご飯にかけながら食べ始める。この日のメニューは、雷魚の酸っぱいスープ、空心菜のニンニク炒めと野菜炒め。これをおかずに、ご飯をたくさん食べるのだ。決して豪華ではないが、丁寧に作られた料理は素朴な家庭の味がした。
写真左上)食事をするのは2階の床。庭にある台所から、料理を運ぶ。家に入る前は靴を脱ぐのが習慣
写真中大)昔ながらに、かまどに火をおこして調理する。薪をくべながら、火加減を調整してご飯を炊き上げるのは難しそうだが、「慣れれば簡単よ」とのこと
写真中小)鉈を腰からぶら下げて、椰子の実を取りにいくのは男性の仕事
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