10月29日(日)/晴れのち霧
3143m
3.インドシナの屋根
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ファンシーパンに立てられた記念碑。訪れた旅人を、その頂で迎えてくれる |
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山頂で出会った人々。世界各地から旅行者がやってくる |
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これまで歩いてきた道のりを、山頂から臨む。深い霧がたちこめているが、そこから尾根が突き出す様もまた、美しい |
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岳人たちの頂/標高3143m・気温17.1℃
山頂付近までくると、山は再び竹藪に覆われ始めた。道は途中で北ルートと合流し、そこから先は少しぬかるんだ黒土となった。はやる気持ちを抑えつつ、足を取られないよう慎重に登る。行く手が、ほのかに明るくなってきた。藪の終わり、竹の間から青空がのぞく。「着いた! 山頂だ!」体の疲れも忘れ、駆け足で光を目指す。そして藪を抜けた瞬間、そこには、巨大な岩が折り重なるファンシーパンの頂があった。
岩の上に立ってみる。周囲360℃、遮るものは何もない。あいにく山の下は濃い霧に包まれていたが、霧の中に、これまで通ってきた尾根の連なりが突き出している。ただ呆然と、その風景に圧倒された。ほてった体を爽やかな風がゆっくりと冷ましていく。岩の上に立てられた記念碑には「Roof of Indochina」の文字。石版に刻まれた単なる文字ではあるけれど、なんだか無性に誇らしげに見えてくる。
「この山にずっと登りたかったの。だって、ベトナムで一番高いところに今いるのよ。疲れたけど、本当に気持ちいい」と、山頂で出会ったニエン(Nhien)さんが、笑顔で言った。彼女はハノイに住んでいる。家族と共に、北まわりのルートから2泊3日で登ってきたらしい。山頂で昼食をとっていると、カナダからきたという学生たちが、息を切らしながら登ってきた。標高3143m。その高地に世界の人々が一同に集う。目的地は、この何もない頂だ。ここにいる誰もが、そんな山頂に立ちたいという想いだけで、道なき道を自分の足で登ってきたのだ。
ベトナム、そしてインドシナ半島で最も高い場所。チュンさんが、サパから持ってきたベトナムの国旗を、少しうやうやしくではあるけれど、三角点にそっと立てる。緑の樹海、薄暗い竹藪、咲き誇る花々。ファンシーパンの全てを見、全てをその身体で感じた道程。この山に魅了された旅人たちの想いを全て包み込み、真紅の旗が抜けるような青空にはためいた。
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