10月27日(金)/晴れのち曇り
1.山に息づく、人々の暮らし
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ファイ(Phay)さんは、カットカット村に住む黒モン族。1年に1度、11月頃になると栽培しているカルダモンの実を採るために山へ入る。板を組み合わせただけの簡素な小屋で、約1週間の山暮らし。朝から晩まで収穫を続け、約200kgを収穫。おおよそ800ドルの収入になるという |
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森に彩りを添える深紅のカルダモンの実。現地では、この種子を漢方薬として使う |
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森の住人/標高1705m・気温21.3℃
緩やかな登りの山道が続く。しかし、所々に立ちはだかる急勾配。「どうやって登るの?」と聞くと、「普通に登ればいいんだよ」と、こともなげにチュンさんは言う。道の舗装はすでに無い。草木をつかみ、地面をつかみ、足下を確認しながら、山肌にはりつくようにして登っていく。いつの間にか忘れてしまっていた草や土の匂いを鼻先で感じながら、切れる息に、都会暮らしのなまった体が少し恨めしく思えた。
道すがら、ナイフで切り込みが入れられた大木が目にとまった。樹皮の切れ目から、琥珀色の液体がしみ出している。黒モン族など、現地の少数民族が糊の代わりに採取しているという樹液だ。今の時代も自然と共に生きる人々の生活が、うっそうとした森の中に息づいているのだ。
途中、昼食の休憩を取り、更に険しくなった山道を進む。ここまでくると、道はもう道でない。富士の樹海を思わせるような苔むした倒木が時折道をさえぎり、それを越えるとまた倒木、の繰り返し。登っては休憩し、休憩しては登る。そんなことを2、3時間続けていると、木立の間を抜けて、どこか遠くから木を切る音が聞こえてきた。「コーン、コーン」。澄んだ音がしっとりとした森に響き渡る。「この山では香辛料のカルダモンが採れるんだ」と、チュンさんが教えてくれた。どうやら黒モン族は、村での普段の農作業の他、山でカルダモンの栽培もしているらしい。そして、その収穫時期に過ごす小屋を建て直している音だという。
夕方の5時頃になって、ようやくベースキャンプに到着した。先に到着していた黒モン族のポーターたちは、すでにテントを張り、火をおこし、夕食の支度もほとんど終えている。キャンプ地は、少し開けた沢沿いの平地。ほんのり甘く暖かい紅茶で疲れを癒していると、目の前に数品の料理が手際よく並べられた。牛、鶏、豚肉などの炒め物にスープ、ごはんもすでに炊きあがっている。至れり尽くせりの夕食と共に、まったりとした1日目が過ぎていった。
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