列車は今日も走る。人々の暮らしを乗せて。
南北ベトナム。
それはここから始まった

	最新型車両のSE2。ホーチミン市〜ハノイ間の運賃は、ソフトベッド97万7000ドン(約6830円)〜
	鏡のような水面を滑るように小船で進む。タムコックでは、小鳥のさえずりとオールのきしむ音だけが、静寂の世界に聞こえてくる

　ハイヴァン峠の絶景をたっぷりと楽しんだ列車は、一路フエへ。ベトナム最後の王朝「グエン(阮)朝」の都だったこの街は、駅にも外国人観光客の姿が数多く見られる。ハノイ、サイゴン、ダナンに続く規模の駅舎は、アーチ型の窓やピンク色の外壁など、他の駅とは少し趣の違う、由緒正しい歴史の街の風情をそこに湛えていた。

　午後1時。フエを約1時間遅れで出発した列車は、雑木林を抜け、広大な水田に出た。はるか向こう、列車が向かうその先にも、再び雑木林が広がっている。そう、ここはベンハイ(Ben Hai)川から南北それぞれ5kmにわたり設けられた、非武装地帯（DMZ）。1954年、ジュネーブ会議でベトナムが南北に分断された北緯17度の境界線だ。

　車窓から見えるのは、単なるのどかな田園風景。菅笠をかぶったおばさんや、真っ黒な瞳をこちらにむけ草をほおばる水牛、そして何をするでなく列車を見つめる子供たち。しかし当時、この水田の上を無数の砲弾が飛び交っていたのだ。赤茶けた大地にそよぐ緑の稲穂。それは、つい30年ほど前までこの地で戦いが繰り広げられていたとは思えないほどに、太陽の光にキラキラと輝いていた。

　ホーチミン市からの旅もそろそろ終盤。列車は故ホーチミン首席の生家があるヴィン(Vinh)の街を抜け、陸のハロン湾と呼ばれる景勝地タムコック(Tam Coc)のあるニンビン(Ninh Binh)へ。平らな大地に大きな岩山がそびえ立つ、なんとも不思議な光景が窓の外に広がりはじめた。ここまでずっと地平線に直に太陽が沈む、そんな風景が続いていたが、ここではそびえ立つ岩山に日が沈む。

　早朝、ニンビン駅でS4列車に乗り換え、遂にハノイまであと約2時間の道のりとなった。ホーチミン市からハノイまで、この列車なら約40時間。ホーチミン市からやってきたという隣に乗り合わせた家族も、心なしかどこかその表情が柔らいで見えた。

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スケッチトラベルで行く
2泊3日ベトナム統一鉄道の旅

（2005年9月号 | 2005年9月9日 金曜日 11:22 JST更新）