故国への想いを綴る
聖なる光の薔薇
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表は幾度もの修復で再塗装されているが、教会をぐるりとまわったその裏側は、古ぼけた当時の面影を垣間見ることができる |
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1010年に李朝の創始者Ly Thai To(リー・タイトー)が遷都を行って以来、約1000年もの歴史を育んできた街、ハノイ。その後、フランス植民地時代に西洋文化の影響を色濃く受け、街の姿を大きく変えてきた。そして今、この町には入念に計画された緑豊かな並木道が整然と走り、市内各所に設けられた湖や公園は、人々に安らぎを与えている。2月号でお送りしたホーチミン市の建築散歩に続き、今回はベトナムの首都ハノイに広がる魅惑的な建築群を巡る旅に出かけてみよう。
市街地の北、Nguyen Bieu(グエン・ビェウ)通りとPhan Dinh Phung(ファン・ディン・フン)通りの交差点近くに、一風変わった教会がある。旧ハノイ城の北門正面に位置することから北門教会と呼ばれるのがそれだ。一目見て、まず驚かされるのが建物正面の大きな薔薇窓。そして、その上には東洋的な瓦屋根がかかり、東西がほどよく混じった印象的な美しさに、惹かれずにはいられない。フランス人建築家であるDepolit(ドゥポリ)が設計し、ベトナム人技師Co Huong(コー・フン)によって建設されたこの建物は、ハノイ一の高さを誇る鐘楼を持ち、コロネード(柱廊)も備えられている。
ベトナムではMinh Mang(ミンマン)帝時代など、これまで幾度にも渡りキリスト教に対する弾圧が行われた。そして、そうした弾圧の中で2名の信者が処刑された場所にこの教会は建てられ、その他合わせて9名の殉教者の名を刻んだ碑も掲げられている。教会を彩るステンドグラスには、中央に聖母マリア、左はジャンヌ・ダルク、右に同教会の初代司祭の姿が描かれ、異国に赴いた当時のフランス人たちの祖国へ対する想いに、鮮やかな光を添えている。
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