水没した樹木が覆い茂る湿地の中を、水草をかき分けながら、小さなボートはすべるように進む。薄暗く長い緑のトンネルを抜けると、一気に視界が開けた。目の前に数百メートルに渡って広がる湖の上には、数え切れないくらいの鳥達が乱舞している。まさにそこは野鳥たちの楽園だった。
見渡す限り人工物は何もなく、我々の船が水を切る音と、鳥の鳴き声以外は何も聞こえない。水草の上を飛び交い、森のこずえに集う鳥達…。
船が近づくと、水面で羽を休めていた鳥の一群が、バシャバシャと水しぶきを上げながら、次々に飛び立っていく。一面の緑を舞台に、鳥達が繰り広げるそんな情景は、神秘的とも幻想的とも感じられ、頭の中に「桃源郷」という文字が浮かんだ。
ここはベトナム南部、メコンデルタの中でもカンボジア国境に近いところにあるチャースー・バードサンクチュアリ。種類にして15以上、何万羽もの野鳥達が静かに暮らしている。 |