ホイアンのとうもろこしのチェー
〜自然の中で食べる素朴なおやつ〜
川の中州にある店に座り、向こう岸に広がる一面のとうもろこし畑を眺めてみる。そんなのどかな景色と共に食べるのは、とうもろこしを甘く煮た「Che Bap/とうもろこしのチェー」。
ここは中部の観光地ホイアン。街の市場の脇からのびる橋を渡ると、このとうもろこしのチェーを出す店が数軒並ぶ中州へたどり着く。「Che/チェー」はベトナムを代表する甘味。豆、芋、果物、穀類などを砂糖といっしょに煮た日本の「ぜんざい」のようなものだ。
もともとは仏教の年中行事などで人が集まった際、夜宴会をする前の午後のおやつとしてその土地の素材を使ったチェーを作り、もてなしていたと言う。その後、チェーはベトナム人の日常のおやつとして普段でも作られるようになったとか。 したがって、ベトナム各地にその土地の物を使ったダクサンのチェーが存在する。そして、ここホイアンをはじめとするベトナムの中部では、豊富に取れるとうもろこしを使ったチェーが有名なのだ。
ベトナムのとうもろこしは日本で見るものと少し違う。色は白っぽく、食べてみると甘さが少なくもちもちとした食感。ゆでてそのまま食べるなら日本人が食べている黄色い種類のとうもろこしに軍配が上がる。
しかしチェーにするとそれは逆転する。このチェーを作る時、外皮をむいた生のとうもろこしの実を刃物でそいでいく。ベトナムのとうもろこしは、もちもちとして実がしっかりとしているので、細かくきざまれても良い食感を保っている。つまり、チェーを作ることを考えると、ベトナムのとうもろこしはとても適当なのである。
とうもろこしと砂糖だけを使ったシンプルな味のこのチェーだが、その素材の畑を眺めながら食べるという演出も加わって、何だかよりおいしく感じられる。この辺りに住む人にとっては当たり前の光景。意識して演出したわけではないのだろう。しかし私にはそのことがとてもうれしく感じられた。その反面、普段自分がとても自然から離れて生活をしているのだと、実感もしてしまう。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理を学び、2003年11月に帰国。現在は日本でベトナム料理教室やベトナム料理店のプロデュース、執筆を中心に活動。2004年12月上旬に食紀行本「ベトナムめしの旅」を情報センター出版局より発売。ハノイ、ホーチミン市でも販売中。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2005年5月17日 火曜日 09:28更新) |