ハロン湾のシーフード
〜船上で作る男の海鮮料理〜
「海の桂林」と呼ばれるベトナム北部有数の観光地ハロン湾。海面から無数の奇岩が立ち並ぶその素晴らしい景色は、世界遺産にも登録されている。
このハロン湾のダクサンは、海で取れる新鮮な魚介類。訪れたなら風景だけでなく、美味しいものもしっかり楽しんで帰りたい。とはいえ、海沿いなどの観光客が多いエリアに並ぶ海鮮レストランは、観光客向けな値段の上、海ならではの特別演出があるわけでもない。そこで是非お勧めしたいのが、ハロン湾クルーズ。実は、このクルーズ船の中でハロン湾のシーフードを楽しむことができるのだ。
私が乗った船はクルーズの途中、料理の素材を仕入れるために、シーフードを売る船に横付けした。そこに乗り移り、船の床に備えられた幾つかのいけすに生きたまま入っている魚、シャコ、海老、いかなどの中から食べたいものを選ぶ。いけすを覗き込んで品定めしていると「かにも食べなよ」とか「この魚もおいしいよ」などと店の人があれこれと勧めてくるが、全てを食べるわけにはいかないので買いすぎないように注意。そしてクルーズ船に戻ると早速、船上での調理が始まった。
調理するのは、船の舵を取っていた男性だ。船の中の一角で、鍋にシャコをぶち込み大胆にビールを注ぐ。そこに刻みしょうが、レモングラス、赤唐辛子などの香味野菜を入れ、蓋をして火にかければ「シャコのビール蒸しレモングラス風味」の出来上がり。この他、海老、かに、いか、貝なども同じく蒸して料理する。必要なのは鍋一つと、とても簡単。
だが、食べてみるとビールで蒸すため臭みも消え、プリッとした食感もたまらない。爽やかなレモングラスの香りと唐辛子の辛味に、思わずビールが進んでしまう。添えられたこしょうが混じった塩にレモン汁を絞り、それにシーフードを付けて食べるのがベトナム流だ。
どれも誰にでも作れるような簡単な料理だが、船上で揺れながら食べるとより美味しく感じられる。恐らくハロン湾の絶景と潮の香りの演出があるからだろう。そして、目もお腹も満足させるこのクルーズを、私はとても満喫した。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理を学び、2003年11月に帰国。現在は日本でベトナム料理教室やベトナム料理店のプロデュース、執筆を中心に活動。2004年12月上旬に食紀行本「ベトナムめしの旅」を情報センター出版局より発売。ハノイ、ホーチミン市でも販売中。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2005年3月10日 木曜日 17:58更新) |