ダナンのミークアン
〜いつまでも変わらない故郷の味〜
私が旅の途中で中部の都市ダナンへ立ち寄ると言うと、ベトナム人の友達が「私の実家を訪ねて、母の作るミークアンを是非食べてみて。絶品よ。」と勧めてくれた。そこで、私はずうずうしくも、一人そこに立ち寄った。「ミークアン」はダナンが属するクアンナム省のダクサン。分厚く幅広いきしめん状の蒸し米麺に、甘辛く煮た肉や海老などの具をのせ、少量の味の濃いスープを注いで和えて食べる麺料理。この麺はフォーなどと同様に専門店や屋台などで食べるものと思っていたが、ご当地では各家庭でも作るのだと言う。
まず、ミークアンの材料を買いに市場へ向かった。材料の海老や豚肉を買った後、ミークアンの麺だけを専門に売る店をのぞく。すると、白い生地を手切りしながら売っているではないか。サイゴンやダナンの街で見かける屋台のミークアンの麺は黄色い。この黄色い麺をミークアンの麺と呼ぶのだと思っていた私は、白い麺を見て驚いた。
「黄色い色はおいしそうに見せるため、食用色素で色を付けているのよ。純粋に米だけで作っている白い麺の方がおいしいのよ。」と麺売りのおばさんが教えてくれた。
家に戻り、さっそく料理を始める。
「うちのミークアンは、スープにトマトとパイナップルを隠し味に入れるの。ほんのり酸味と甘味が付くのよ。」と友達のお母さんは言う。具の海老、豚肉、うずらの卵は、甘辛い味がしっかりとしみ込むまで煮込む。この家ではスープは豚肉から取る。
「生野菜を混ぜて食べると薄まるので、スープの味付けは濃い目にしっかりとね」と、お母さん。
丼にその白い麺を盛り、具をのせてスープを注ぎ、青ねぎとピーナッツを散らす。そして中部特産のごま入りライスペーパーと、刻んだバナナの花やもやしなどの生野菜を添える。
食べてみると、存在感のあるこの麺に、味のしみた具とスープがよく合う。濃いスープが麺や野菜に絡み、程よい濃さに。トマトとパイナップルの酸味も甘辛い味をシャキッと引き締め、私はそのおいしさに夢中になって食べた。
最近開発が進み、大きく変わりつつあるダナン。しかし、家庭の味、ミークアンだけは変わらないでほしいと願う。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。現在は日本でベトナム料理教室やベトナム料理店のプロデュース、執筆を中心に活動。2004年12月上旬に食紀行本「ベトナムめしの旅」を情報センター出版局より発売予定。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年12月24日 金曜日 16:53更新) |