ハイフォンのバイン・ダー・クア
〜ハイフォン人が愛するコシのある麺〜
「バイン・ダーの魅力は、何と言っても噛み応えのある食感だね。」という声を聞いたのは、ハノイに継ぐ北部第ニの都市、ハイフォン。ベトナム人は皆フォーの様な柔らかい麺を好むと思っていたので、意外だった。
ここのダクサン「バイン・ダー・クア/かに汁うどん」は、ハイフォンを代表する郷土料理。北部でよく食べられている、田んぼの小さなかにをすりつぶしてダシを取る。かにの濃い旨味が出たスープには、汁がよくからむ幅の広いバイン・ダーが良く合う。
このバイン・ダーを作っている製造所を訪ねた。国際的な港湾都市である町の中心から10分程バイクで走ると、下町を思わせる家々が立ち並ぶ地域へ入った。その家々の路地の奥。屋根も壁も、家の敷地の至る所に干されている、すだれの数に圧倒させられた。このすだれの上に干してあるのが、バイン・ダーだ。「バイン・ダー」とは北部の言葉で「ライスペーパー」の意味。ライスペーパーを製造する過程で、それを裁断して麺を作るという訳だ。
すりつぶした米と水を合わせた生地を薄く広げて蒸すのだが、フォーは蒸したての生地をそのまま切って麺にする「生麺」なのに対して、バイン・ダーは一度干してから切る「乾麺」だ。とはいえ、完全に乾燥させるのではなく、日差しの強い時間に数時間干して半乾きにした「半乾燥」状態の麺。この半分乾かす作業が、バイン・ダーをゆでた時に噛み応えのあるコシを与えるのだ。
普通米の麺というと白色だが、バイン・ダーには白の他に、茶色い麺もある。この色は、精製していない砂糖きびの汁を、米の生地に加えたもので出すという。
「フォーはベトナム人の多くが好きな麺だけれど、ハイフォン人にとっては魅力が薄いよ。しっかりとコシのあるこの麺が好きだね」。
全国で食べられているフォーに比べ、バイン・ダーはこの地域限定のご当地麺。それだからか、きちんとその違いをわかり、この麺を愛するハイフォン人のこだわりを、ひしひしと感じた。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。現在は日本でベトナム料理教室やベトナム料理店のプロデュース、執筆を中心に活動。2004年12月上旬に食紀行本「ベトナムめしの旅」を情報センター出版局より発売予定。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年12月24日 金曜日 16:53更新) |