チャウドックのマム・カー
〜メコンの恵みが作る贅沢なダクサン〜
チャウドックの名所、寺や廟が点在する神聖なサム山は、毎日たくさんの参拝客、観光客が集まり、活気に満ち溢れている。特に賑やかなのが、山の北側にあるバー・チュアスー廟への参道。参拝者向けの土産物屋の中、山のように積み重なった「Mam Ca/マム・カー」が並ぶ光景に圧倒される。
「マム」とはベトナムを代表する食品で、魚や海老などに塩を混ぜ発酵させた、塩辛く、旨みが濃厚な調味料のようなもの。発酵が進むと生臭さが消え、深みのある独特の臭いに変わり、強い旨味が造られる。魚醤「ヌック・マム」も、「マム」という言葉が付く通り、この仲間。「液体のマム(ヌック=水)」と言う意味で、マムの上澄み液を取った調味料である。この他、海老を原料としたペースト状の「マム・トム」や、アミエビを原料とした「マム・ルォック」などがある。
そしてチャウドックが誇るのが、魚を原料とした「マム・カー」。しかし、これだけは作る工程が少し異なる。魚を塩漬けした後、塩は洗い流し、ヌック・マムと「ティン」という炒り米の粉を混ぜてカメの中に漬け込む。3ヶ月以上経てば食べられるようになるが、長く漬けておけばそれだけ旨味が増すという。世界中に発酵食品はいろいろあるが、その多くは貴重な食材を保存する目的で作られている。しかし、ここのマム・カーは事情が違う。雨季には食べきれない程獲れるメコンの淡水魚を、いかに無駄にしないかという発想から作られているのだ。マムの形にすれば、通常は調理して食べるだけの魚に、調味料としてプラス、ダブルで魚を摂取することができる。まさに巨大な河の豊かな恵みが作り出したダクサンだ。
大小様々な魚から作られるマム・カーだが、一番有名なのが「サック」や「リン」という魚のマム。これを使った「ラウ・マム」は、街の食堂や飲み屋で食べられるお勧めの料理。マムをスープに煮溶かし、その魚の旨味がしっかりと詰まったスープで、さらに魚介や野菜を煮込んで食べる鍋料理。強烈な臭いだが、とにかく美味しい。私はマムのこの「臭い美味さ」に夢中だ。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。現在は日本でベトナム料理教室やベトナム料理店のプロデュース、執筆を中心に活動。2004年11月下旬に食紀行本「美味しいベトナムのお話 (仮) 」を情報センター出版局より発売予定。
写真撮影=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年11月18日 14:25更新) |