ムイネーのGoi Ca
〜港町の鮮魚の食べ方〜
青い海と白い砂浜が広がるムイネー。サイゴンの街の雑踏と、行きかうバイクの騒々しさに疲れ、私はそこを訪れた。海岸沿いにたくさんのリゾートホテルが立ち並び、ビーチリゾート色の強いムイネーだが、岬の方まで行ってみると、昔ながらの漁村の姿を見ることができる。そう、ここは新鮮な魚介がいつでも手に入る漁港であることを忘れてはならない。
そして、そんな地域ならではのダクサンがある。生の魚を塩やレモンで締め、調味料や野菜とあえて食べる「Goi Ca/ゴイカー」 という料理。地域によって使う魚や味付けは様々だが、ここムイネーで食べたものが特に忘れられない。
「ここのゴイカーはタレが自慢さ。ピーナッツの油気がさっぱりした白身の魚によく合うよ。」 と、地元でも評判の海鮮料理屋の店主が紹介してくれた。すりつぶしたピーナッツにタマリンド、唐辛子、砂糖などを加えて作るそのタレは、程よい油気、辛味、甘味が効いている。レモンで締めた酸味のある魚をこのタレであえ、たっぷりの香草といっしょにライスペーパーにのせる。さらに、お煎餅のように焼いたライスペーパーを砕いてのせ、これをクルッと巻いて、そのタレに付けて食べるのだ。
さっぱりとした魚に、タレのコクや野香草の香り、焼いたライスペーパーの香ばしさが加わり、複雑な味を作り出す。日本人ならば、新鮮な生魚はシンプルにワサビ醤油で食べるのが一番だと考えるだろう。しかし、ここでは生の魚も 「どんな料理でも甘味、酸味、辛味…など、あらゆる要素を一皿に盛り込む」 というベトナム料理の考え方に従って料理されていた。
だが、料理法は違うけれど、「新鮮な魚は生で食べるのがおいしい。」 との気持ちは日本人もベトナム人も同じ。ベトナム人は生ものを食べる習慣のない人が多いと聞くが、新鮮な海の幸が豊富な地域では、どうもそれは当てはまらないようだ。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。
写真撮影=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年9月24日 11:33更新) |