Vinhのうなぎ粥
〜天然のうなぎで作る庶民の味〜
「朝食は食べたかい? ここに来たのならうなぎ粥を食べなさい」。
早朝に列車で到着した殺風景なVinh (ヴィン) の駅で、駅前の食堂のおばさんが勧めてくれたのは、ここの名物、うなぎ粥であった。甘辛く煮た田うなぎがたっぷりとのったお粥。身をさばいた後の骨でダシを取り、そのダシでお粥を炊く。そして、お粥にうなぎの身をほぐしながら食べる。トロッとしたお粥の中に、プリッと身が締まったうなぎの存在感が溢れる料理。
VinhのあるNghe An (ゲー・アン) 省では、天然の田うなぎ漁が盛ん。うなぎ粥は、そんな土地に生まれた庶民の日常食だ。これを食べると一日中、元気に過ごせるという。「俺は毎日食べているぞ。どうだ、うまいだろ?」。その屋台に居合わせた客が話しかけてきた。日本で食べる脂がのったものを想像すると、うなぎの量を見ただけで、朝には重いのではと感じてしまう。だが、食べてみるとあっさり、身も締まっている。これならば、朝食としてぺろりと一杯食べられる。「ここは他の街に比べると、観光客が集まって来るような場所も少ないし、華やかじゃあない。でも、うなぎだけはどこにも負けないよ」と、その客が付け加えた。そんな話を聞いているうちに、Nghe Anの人々が誇る、うなぎの漁に携わる村を訪ねてみたくなった。
早朝、村に到着すると、ちょうど朝の漁から戻ってきたところ。獲ってきたうなぎを竹筒から次々に出していた。天然のうなぎだけを獲るその漁は、餌をしかけた竹筒にうなぎを引き入れる方法と、餌をつけた針で一匹ずつ釣る、2つの方法で行われるという。
どの家もうなぎの漁をしているこの村の人々からしてみれば、うなぎは日常のチープな食材。そんなものに興味を持って、わざわざ遠くからやってきた珍客は、どうやら不思議に映るらしい。私は、日本人にとって高価な天然のうなぎ、ご馳走であるうなぎ料理の存在を伝えた。「それなら、たくさんの日本人がここにうなぎ粥を食べに来ればいいのにね」。初めて外国人に会ったという子供が、うれしそうに言った。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年8月24日 7:56更新) |