Vong村のComの風情
〜若く青い旬の色〜
ハノイの街中、青いもち米から作るCom (コム) を天秤で売り歩く女性達の姿は今も昔も変わらない光景。
普通のお米やもち米は稲が黄金色に色付いてから収穫されるが、このコムを作るもち米は稲が未熟の状態で収穫して加工される。青は若い稲の色なのだ。ハノイ郊外のTu Liem県にあるVong村は、このコム作りで有名なところ。収穫された若い稲を脱穀する機械の音が鳴り響いていた。脱穀した稲を底が丸い釜で炒ると、もみの中の若いもち米に火が通り、ふっくらとしてよい香りがしてくる。その後、臼に入れて杵でついて籾殻を除き、これを大きなザルに入れて振る。すると籾のかすが外へ飛び、コムだけが残る。
できたてのものは半分炊いた状態のお米のごとく、少し歯ごたえを残しつつ、モチッとした食感が楽しめる。しっとりとした質感と、青い香りと香ばしさが入り混じったような独特の香りで、癖になる味。以前私が住んでいた南部では、これをパリパリに乾燥させたものばかりだったので、初めてこのしっとりとした食感に出会った時には感動した。
昔は初秋に原料の若い稲の時期を迎えることから、初秋の旬の味覚とされていた。しかし、二期作が進んだ現在では5〜6月と9〜10月の2期がこのコムの新物の出回る季節となっている。この時期以外は、稲のまま干して保存したものを使って加工しているそうだが、旬のものには到底かなわない。コムは餅菓子や料理に使うこともあるが、旬のものはシンプルにそのまま食べるのがいい。
Vong村の女性達が売り歩く時、できたてのしっとり感を保つために、新鮮なハスの葉に包んで運ぶ。買う時は昔ながらのつるし秤で量ってからハスの葉に包み直し、籾を取った後の稲で結んでくれるのだ。素敵な天然素材のラッピングは風情があり、青い色もより鮮やかに見える。古い町並みの残るハノイに似合う季節限定のダクサン (特産) である。
※「ごはん」の意味のComとは発音記号が異なる。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(2004年5月12日 8:14更新) |