ニャチャンのさつま揚げ Cha Ca
〜取れたての魚で作る港町の味〜
Cha Ca(チャーカー)はベトナムの魚料理で、2つの種類がある。1つはハノイ名物の、川魚などを麹やターメリックに漬けてハーブと料理した「魚の炒め焼」。もう1つは魚のすり身を使った「さつま揚げ」。今回は後者のチャーカーを訪ねてみた。
港町ニャチャンはホーチミン市から北へ約400キロ。今やベトナムを代表するビーチリゾートとしても有名なところ。早朝に市場を訪ねると、新鮮な海の幸を売る威勢のよい声に混じり、パチン、パチンとリズミカルな音が聞こえてきた。これは魚のすり身の生地を手で叩き、チャーカーを形作る音。すぐ横から取れたての魚を仕入れ、その場で手作りさつま揚げを売っているのだ。朝だからこそ、新鮮な魚で作った熱々チャーカーにお目にかかれる。おいしいものに出会うための早起きはしてみるものである。
原料になる魚は様々だが、中でも鰆(サワラ)を使ったものがニャチャンでは一番ポピュラー。すり身にした鰆に、にんにくやねぎ、調味料を加え、よく練って生地を作る。つなぎは使わずに魚の粘りだけで作るのがベトナム風。このため、プリプリとした食感がとても強く感じられる。この生地を手早く叩きながら円盤状にまとめる。日本のさつま揚げと比べるとかなりの大判で、手の平の大きさは充分にある。
「さつま揚げ」と言うからにはこれを油で揚げるのだが、この他に蒸すタイプとの2種類がある。揚げた方は香ばしさがたまらないし、蒸した方はさっぱりしていて魚の甘味を楽しめる。
このチャーカー、そのままご飯のおかずで食べることもあるが、港町での一番人気は、麺といっしょに食べる「さつま揚げうどん」。魚スープに米麺を入れ、切ったチャーカーをのせて食べるのが朝食の定番で、町のあちらこちらにこの屋台が出る。新鮮な魚料理を朝から食べられるこの町での贅沢。ビーチで泳ぐのもよいが、チャーカーを食べる時、ニャチャンを訪れた喜びを感じる私である。
文=伊藤忍(ベトナム料理研究家)
1972年生まれ。雑誌や広告の料理コーディネーターの経験を経て、2000年にベトナムへ移住。人気カフェ「ラフネソレ」のマネージャーとして活躍するかたわら、家庭料理の勉強をし、2003年11月に帰国。
伊藤先生のウェブサイト:Annam Table
(ベトナムスケッチ2004年4月号) |