ベトナム雑貨よもやま話
謎の日本人アルバイター"たんの君"のお話(レストラン編)
よく「海外には少し変った日本人が多い」と言われるが、私達の会社で採用した新人アルバイター"たんの君"はまさに強烈だ。ある日、一人の日本人が短パン&Tシャツで訪ねてきた。「あの〜、仕事させてもらえませんか?何でもやります。」たまたま忙しかった時期だ。私の「語学はできますか?」の質問に、「英語もベトナム語も少しなら話せます」と彼。彼の言葉を信じ、仮採用することにした。
ところが出社予定日。何時になっても現れない。そして夕方5時。「あの〜、今日遅刻します」と彼からの電話。遅刻しますじゃない! 仕事は朝の9時からだ。今何時だと思ってるんだ! 怒る気にもならず「今日はいいから来る気があったら明日来て」としか言えなかった。次の朝、何もなかったかのように平気な面で出社して来た彼。本人からの「すみません」がなかったので、「昨日はどうして来れなかったの?」と聞いてみると「いや〜、一昨日朝まで飲んじゃって起きたら夕方だったんですよ」の返事。普通の会社ならその場で不採用だろう。今考えるとどうして雇ってあげたのか自分でも不思議だ。でもこれも何かの縁と考えるしかなかった。
それから1週間、1ヶ月と時が過ぎ、彼の事がだんだん分かってくるにつれ「すごい奴を雇ってしまった」と思い知らされる。ある日、いきなり「ちょっと200ドルくらい借りときます」と私に言ってきた。「ちょっと待て、『貸してください』じゃなくて『借りときます』?」「でもすぐ返す見通しが立ってますから」と彼。しかし、お金が返ってきたのは1ヶ月後。結局彼が言う「見通し」は、1ヶ月後に私達が払ってあげる給料の事だったのだ。
また、ある日分かったこと。英語が話せると言っていたのに、なんと月曜日から日曜日の一週間が英語で言えなかったのだ。数字も1〜10はよいが、10以上は分からない。Be動詞は使えないし、塩とか砂糖などの簡単な単語も分からないのだ。ココまで行けばかえってスゴイ! さらに彼はこの語学力で何ヶ月かベトナムで一人で暮らしていたのだから、ある意味でベトナムの懐の深ささえ感じる。
でも人間とは不思議なもの。彼の行動を毎日見ていると「こんな人がいても良いんじゃないか、いや、いなくてはならない存在だ」と逆に思ってしまうのだ。それが私だけではなく、他のスタッフや外部の関係者からもいつしか「彼はここに居るのが一番似合っている」とまで言われるようになったのだ。そんな失敗ばかりの"たんの君"にも、もちろん良いところがないわけではない。意外と優しくて素直な人なのだ。それが今までズルズルと雇ってあげている理由なのだ・・・。
今回、そんな"たんの君"を今私達が作っているハノイのレストランに配属転換した。周りには大きな賭けと言われるが、私としては彼にもっと頑張ってもらいたい、やれば出来るんだという自信をつけて欲しい、そんな気持ち以外の何ものでもない。ところが先日突然、「僕、5年ここで働かせてもらった後、ニューヨークに行って仕事見つけようと思ってます。それまでに英語ペラペラになります。それまで頑張りますからお願いします」と彼。う〜ん、やっぱりスゴイ!
最後に一言。一日でも早く彼にレストランで働く為の常識と知識を習得させ、皆さまが楽しめる場所に出来るよう努力しますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
文=八木 伸樹
(ベトナムスケッチ2003年10月号) |