ベトナム雑貨よもやま話
雑貨ブームの行方
ホーチミン市で1997年にお土産ショップを開いた頃は、正直言ってこれだけのベトナム雑貨ブームを予想していなかった。その頃、日本の友人に「アオザイ」と言っても何の事か知らない人がほとんどだったのを記憶している。品揃えも今と比べたらとても少なかった。というよりは、ベトナムに今ほどのモノを生産する力がまだなかったからかもしれない。その頃はドンコイ通りもまだ垢抜けず、日本人の若い女性観光客などほとんど見かける事はなかった。
2000年頃を境にベトナムブームに火がつき出し、「雑貨」という新しいアイテムの需要が急激に伸びてきた。どこのTVを見てもベトナム特集、人気女性誌はベトナム雑貨特集をする。若い女性が来たがるのも当然だ。日本人に限らず女性は買い物が大好き。特におしゃれアイテムとなるとパワーも倍増。かわいい服やバッグなんていくつあっても困らない。そんな女性パワーに支えられ、続々開店する雑貨店。しかし一攫千金で成功した人もいれば、失敗して消えていく人もいる。
そして今年3月、ある程度ブームが落ち着いたところで急に襲ってきたSARSパンチ。乗り切れた人もいればそうでなかった人もいたようだ。時の流れは速いもの。夏休みの観光客がどっとおしかけるハズの季節がやって来た。ところが今年の売れ行き動向は今ひとつ掴みにくい。雑貨を含めほとんどのベトナム製品が日本でも手に入るようになった今、新鮮さにかける品揃えでは面白くないのだろう。お客様の動向を見ていると、お金をかける対象の幅が広くなって来たのも理由だろう。以前は少なかったエステやスパ、食事やレクリエーションが充実してきて、十分に時間をつぶせるのだ。個人的にはそれはそれでよい事だと思っている。ただ買い物をして帰っていただくよりも、もっと現地の人に近づき、ベトナムを理解し、充実した休日を過ごしてもらう、それが理想だ。
それはそれでよしとして、私達お土産ショップを含めお客様にモノを買っていただいて生計を立てている商売も、そろそろ転換期に来ている気がする。今までのように、お客様の方から「あれが欲しい、これが欲しい」と言っていただく時代はもう終わり。自分達のカラーを出し、お客様に提案出来るような品揃えと販売方法を取り、興味を持ってもらわなければ商売は成り立たないであろう。良きにせよ悪しきにせよこれからが本当の正念場。ここで波に乗れるかどうかで、今後やっていけるかどうかが決まってくるのは間違いない。日本でバブルとその結末を経験した私にとって、流れを感じ理解するのはそう難しいことではないが、バブル頂点にあるベトナムブームを経験し、成功しているベトナム人がどこまで将来の事を考えて行動出来るかが今後のカギだろう。
アメリカ軍も追い返したほど、底力のあるベトナム人。何があっても「コンコサオ(ネバーマインド)」の精神と独特のユーモアで、もっともっとこれまでの雑貨を上回るヒット商品を作り、私達を楽しませてもらいたいものだ。
文=八木 伸樹
(ベトナムスケッチ2003年9月号) |