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「Frog eats fly」 56×76cm 2000年
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第2回 温故知新の現代アート
「うちは現代アートしか扱わないので…」。
日本のギャラリーで何度となく言われたこの台詞。漆が工芸品に分類されている日本では、漆を使っているというだけで、現代アートどころか、美術絵画ともみなされないことがほとんどなのです。一方ベトナムでは、漆画は油絵などと肩を並べる絵画のジャンルのひとつ、ことに現代アートとして認められています。この違いには、両国の歴史的状況が関係しています。
中国や日本では、時の権力者が漆芸家を擁護したため、漆工芸が高度に発達しましたが、絶えず外国からの侵略の脅威にさらされていたベトナムでは、素朴なままでした。それが仏領時代の1925年、フランス人により、インドシナ美術学院がハノイに創設されると状況が変わります。本国から招かれた教師たちはエキゾティックな漆に魅せられ、意欲的に絵画作品に取り入れました。彼らと創立当初の学生たちが研究を重ね、現在のようなベトナムの漆画が生み出されることになったのです。ですから、漆画はそれまでの素朴な漆工芸とは別物の、誕生して100年にも満たない現代アートとみなされるようになりました。その後も試行錯誤が繰り返され、今では世界各国で注目されているのです。
私の作品も、天然漆と伝統技術にこだわりながらも、あっと驚く発想が自慢の現代アートだと自負しています。とはいえ日本では、高いレベルの漆工芸の伝統があるがゆえに、従来のイメージを覆すには時間がかかりそうです。
ベトナム漆は時間にのんびりしたこの国らしい、大器晩成型の素材なのです。
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人工塗料を使用し、古びた感じに仕上げられた偽物の多いアンティークの漆芸品。本物は汚れや傷があっても、指でこすり続けるとつやつやと発色してくる
撮影/西澤智子
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安藤彩英子 あんどうさえこ
1995年にベトナムへ移住し、漆画の修行を始める。以来、数々の個展やグループ展、またはメディアを通して、ベトナム独特の漆芸術「ソンマイ/Son Mai」を内外に紹介。また、伝統漆芸技術の伝承にも取り組み、ハノイにて、ベトナム漆画・漆芸の後進の指導に力を注いでいる。
http://andosaeko.com
(2009年12月号 |2010年2月3日 水曜日 10:59 JST更新)
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