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鳥インフルエンザやSARS(サーズ)、デング熱など、現在、地球規模で感染症の流行が次々と報告されている。このような感染症の実態を解明するため、文部科学省が行う新興感染症研究ネットワーク事業の一環として、長崎大学熱帯医学研究所がベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)と協力し、感染症研究のためのプロジェクトを立ち上げた。長崎大学からは研究者6名と事務官1名がベトナムに滞在して参加しており、山城教授はそのリーダーを務めている。 同プロジェクトでは、鳥インフルエンザのような人間と動物の間で感染する人獣共通感染症や、下痢などの腸管感染症研究の他、複数のテーマの研究が同時に進められている。長崎大学がこれらの研究のためのフィールドとしてベトナムを選んだのは、すでに25年近く続いてきた協力関係の実績や、日本に比べて豊富な臨床数ということ以外に、ベトナムの文化的・生物学的要因もあるという。 「ベトナムは生物学的に多様であるばかりでなく、財産として住居の近くに豚を飼う習慣があったり、豚や鶏、アヒルなどの異なる種類の動物を一緒に飼育する混合飼育が盛んだったりと、動物と人、異種動物間の距離が近いんです。あくまでも仮説の域は出ませんが、人獣共通感染症をはじめとする、私たちの感染症研究に適したフィールドなのではと考えています」。 山城教授が現在取り組んでいるテーマは、大きく分けて3つある。1つ目は抗体製剤の研究。抗体製剤とは、ワクチンが特定の病気に対する体内の抗体を増やし、その病気にかかりにくくするのに対し、ダイレクトに抗体を患者に接種させることで、短時間での効果をあげようというものだ。 2つ目は、まだ始まったばかりの鳥インフルエンザ研究。発生前から一定の地域を恒常的に調査・分析し、発生の瞬間をつかまえ、発生メカニズム解明につなげることをねらう。 3つ目が子どもの下痢の研究だ。 「個々のウィルスや細菌に着目するのではなく、私たちはあらゆるタイプの下痢を網羅的に調査・分析することで、小児下痢の全体像を浮かびあがらせることを目指しています。子どもに焦点を当てたのは、下痢で亡くなるのは圧倒的に子どもが多く、研究の必要性を痛感していたからです。2007年末にハノイで腸管感染症が流行した際にはいち早く研究を進め、流行制圧への重要な情報を公衆衛生当局に提供することができました」。 このようにすでに大きな成果をあげつつある同プロジェクトだが、そこにはベトナムの研究状況も大きく寄与しているという。 「じつは、ベトナムはとても研究しやすい環境なんです。情報公開が進んでおり、ひとつ決まりごとを作ると、その後はスムーズに進みます。また、政府が協力的で、ひとたび感染症が発生すると全力で制圧に取り組み、外部研究機関の助力を請うこともいといません」。 数年前のSARS流行の際、この特質が生かされ、早い段階での制圧に成功したのは記憶に新しい。 「今後もベトナムでの研究をさらに進め、感染症に関する重要な情報を発信していけることを願っています」という山城教授。 ベトナム発の研究成果が、世界の感染症制圧への大きな力となる日も、そう遠くないかもしれない。 (2008年11月号 | 2008年12月13日 土曜日 10:50JST更新) |
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