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1999年の初来越は、日本料理店の料理人としてのものだった。日本人が多く住むハノイのサービスアパートメントでの鮮魚の巡回販売は、2002年から始めたそうだ。 ハノイに住む日本人が戸惑うことのひとつが、海魚が手に入りにくいこと。海から離れたハノイでは海魚の値が張るため、人々はおもに川魚を食べるのだ。そのため、最初は仕入れのノウハウもあまりなく、日本人が求める魚を、それも刺身にできるくらい新鮮なものを手に入れるのにとても苦労したそうだ。 「仕入れる魚は、自分が食べたいもの、味が日本人好みのものを選ぶようにしています。始めの頃はハロン(Ha Long)湾へ自らおもむき、周辺の市場をしらみつぶしに回って、こちらが希望するような魚をおろしてくれるところを探しました。日本と同じで、小売業者が船から直接買うことはできないということでしたので」。 ルートを確保した今は直接出向く必要はなくなったが、それでも、納入された魚は、日本人の目でしっかりチェックする必要がある。とくに刺身で食べる魚となると、ことさらだ。仕入れた魚はウロコを取り除き3枚におろして販売する。刺身は固まりのままでも売るが、客の要望によっては目の前で切るサービスもおこなっている。さらに惣菜も販売しており、こちらも人気だ。 現在おもに仕入れているのは、マグロやイカやサーモン、鯛やスズキなどの白身魚、とりわけイカがおいしいそうだ。マグロはニャチャン(Nha Trang)で揚がった生のものがホーチミン市経由で、またサーモンはノルウェーから空輸されてくる。 そんな田村さんに、この6年間の、ベトナムにおける海魚の流通環境の変化についてうかがった。 「昔は、鯛も一本釣りされたものが出回ってたんですよね。針が口についた状態のものも見かけました。でも今は、大きな船が網でごっそり獲っていくような漁の仕方になっているようです。とくに3、4年前からは、ベトナムでたくさん獲れているはずのエビやイカまで、ベトナム国内で冷凍モノが流通しています。他の国からやって来る大型漁船が増えたからなのか、ベトナムの漁業全体が輸出に目を向けるようになったからかはわかりませんが」。 入荷することのできる魚の種類も変わってきた。 「以前はアマダイやマナガツオなども入荷できたのですが、今はもう入らなくなりました。海魚全般の価格も、この6年で2、3倍になってしまいました」。 また、ハロン湾からの魚がハノイに着く時間もだんだん遅くなってきているそうだ。経済発展に伴い、ハロン湾・ハノイ間の道路の交通量が増えているからだろう。 先月からは、無農薬野菜の販売も始めた。これは、海外青年協力隊の指導のもと、ホアビン(Hoa Binh)省の2つの村で栽培されたものを、委託されて販売しているのだ。「安全」を謳っていてもその実態が気になるところだが、日本人が現地に住み込んで指導しているので、安全度はピカイチだ。 日本人の在住者が増加の一途をたどるハノイ。食の不安がささやかれるなか、田村さんにかかる期待は、ますます大きくなりそうだ。 (2008年8月号 | 2008年8月7日 木曜日 11:16 JST更新) |
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