成木ゆかりさん
(TVMプロジェクトマネージャー)
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ベトナムに合ったテレビ番組は
ベトナムの人にしか作れません |
プロフィール
成木ゆかり なりきゆかり
1961年横浜生まれ。84年に渡仏、『太平洋戦争シリーズ』(エミー賞最終選考)で制作ADとしてスタート、後にプロデューサーに。仏をはじめ欧州各国および米国のテレビ局で放映されるドキュメンタリー番組を手がける。主要番組は「ディスカバリーチャンネル」、「ナショナルジオグラフィック」、「NHK」などで放映。2006年に渡越、TVMでテレビをはじめとするメディア事業推進に務める。
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2008年6月1日、ホーチミン市テレビ3(HTV3)が生まれ変わった。番組制作やテレビ・メディアスクール、出版など、包括的にメディア事業を推進する民間企業「TVM」が、国営テレビ局「HTV」と組むという全く新しい試みが開始されたのだ。
そんな「TVM」で指揮を取る1人が成木ゆかりさん。彼女は仏・パリのテレビ業界でプロデューサーとして20年近く活躍してきた。
「小さい頃から海外の事情に興味があって。特に世界中を行くドキュメンタリーが好きだったんです」。
仏時代からベトナムに親しみを持ち、「全く社会体制の違う国へ行きたい」という思いが強まっていた矢先、TVMからの誘いでベトナムへ。そこで彼女は現地のテレビ事情を目の当たりにする。
「ベトナムのテレビ番組の大半が輸入コンテンツなんです。世界的に有名な番組だって、もとは特定の国の視聴者を対象にしているもの。クリエイティブな企画やローカル番組の大切さを、もっと分かってもらいたいと強く思いました。番組は、聴衆にとって面白くないと意味がないですから」。
その国の人が楽しめる番組こそ、視聴者が求めるものだと言い切る成木さん。ではベトナムのテレビ番組に必要なものは何だろうか。
「まず発展性がないといけません。ヒット作のような『強い』コンテンツというのは、テレビだけでなく、マーチャンダイズ、デジタルディストリビューションなど、やがて世界へと広がっていく。制作段階でこのことが頭にないと、これはできませんよ」。
テレビだけで終わらない、そんなローカル番組の実現を成木さんは目指しているのだ。とはいえ、メディアが一方的に押し付けるような姿勢を彼女は強く否定する。
「制作側の人間は、頭でっかちになっちゃいけない。人の声に常に敏感でいて、耳を傾けないと良い番組にはならないんです。でも、その中に浸かっちゃいけない。人の一歩先を指しながら、でも見下すことなく、視点がずれていない、人に近いコンテンツ作りを心がけることが大切なんです」。
それでは、ベトナム人が「近い」と共感できる番組制作に、外国人がどう関われるのか。それについても、彼女は明確に答えてくれる。
「技術的な面で、ベトナム人だけじゃできないことはあるんです。外国人が手を貸し、ベトナム人と手を結ぶことで理想のコンテンツができる。けれど結局、制作に関しては、やはりひとつひとつ丁寧につくるしかない。儲けることだけ考えてたら無理ですよ」。
とはいえテレビを支えているのは、やはりCM。実際、企業広告はその約7割がテレビCMだという。でもだからこそ、面白いテレビコンテンツが必要だと彼女は語る。「ベトナムの、ベトナム人による、ベトナム人のための番組を作る」ことが大切なのだと。
「CMを優先するあまり、番組時間がカットされてしまったり、制作費が他に回されてしまったりというのが現状です。だからこそ、ベトナム独自の面白い番組で視聴者を惹きつける、従来のテレビの形を目指していきたいですね。聴衆は馬鹿じゃない。良いものを作ればそう反応してくれるし、面白ければ人はついてくるんです。オリジナル性、発展性をもっと伸ばしていくことで、ベトナムのテレビはもっと面白くなりますよ」。
(2008年7月号 | 2008年7月15日 火曜日 9:57 JST更新) |